第10話 名前と竜人

 地上の皆に、言葉の基本的な発音を教え始めてから数日が立ち、発音が出来るようになった者達は、それぞれの名前を決める事となった。


 決め方の方法は様々だ。


 言葉を覚えた両親がその子供に名付けたり、夫婦の関係になってる者は互いに名付け合ったりと、各々の自由にさせた。


 まだ人口が二百人程度なので名前が被る事は少ないが、四桁くらいになったら苗字なども考えねばならんかもな。


 現在俺は、名前を決めれないという者が何人かいたので、その者達の名前を考えてる最中だ。


「うーん……」


 目の前に居る者は、黒い肌に、いや鱗だな、黒い滑らかな鱗に覆われた肌、まだ小柄だががっしりとした体格でワニやトカゲの様な尻尾を尻から生やし、頭には厳つい黒い角が2本生えていて、髪が無い代わりに棘の様な鱗が兜みたいになっており、体の各所も鎧の様な甲殻質なプロテクター状の鱗で守られている。

 顔の造形は人のそれではなく爬虫類と人とを掛け合わせた様な形状をしていて、その瞳孔が縦に裂けた爬虫類風の金色の瞳がこちらを見上げていた。


 そう、目の前に居るのは竜人の少年の一人だ。


「よし。お前の名は……バハディアだ」


 うん、格好良くて強そうな名前を付けれた……はず。


 名付けられた彼は、満足そうに誇らしげな表情をしている。

 まぁ、人とは違う造形の顔なので分かりにくいが、たぶんそのはずだ。


「どうだ?

 言えるか?」


 黒い竜人の少年にちゃんと言えるかの確認をしてみると


「ガハ…バ、ハデ、イア…ガ…ハディ…ア」


 と、まだ難しい様子だった。


 これは少し助けが必要そうだな。

 というわけで、助手を呼ぼう。


「エルフィー。

 彼、バハディアに名前の文字と発音を教えてやってくれ」


 少し離れた所で他の者に名前の発音を教えていた、長い銀髪で耳が長く青い瞳の小柄なエルフの少女を呼んだ。


 そう、GPを使って神語とLvを上げたあのエルフっ子だ。


 彼女は両親である、父のムントと母のエフから名前を付けてもらったらしい。


「はい、すぐに行きます」


 そう言い、彼女は小走りでやってきて、バハディア君の足元の地面に小枝を使いカタカナで彼の名前を書き始めた。


 どうやら彼女は言葉を認識できる物なら、文字も分かり書けるらしい。


 先日、言葉の授業をしている時に、彼女が一人で地面に何かを描いているのに気が付き、それを見てみると、ひらがなを地面に書いていたので俺は驚いた。


 言葉を覚えて一週間程度なのに、どんどん色々と上達していってるな。

 賢い子だ。


 そこで、まだ皆には文字は必要ないかもしれないが、せめて自身の名前の文字くらいは教えてあげたいと思い、身体が木なので文字の書けない俺の代わりに、皆に名前の文字を教えてあげてもらっている最中なのだ。

 ついでにエルフィー本人の文字の書き取りの練習にもなるだろう。


 さてと、残りの者の名付けも片付けるか。


 次の者は、小柄で真っ赤な長い髪の間から2本の黒い角が伸びていて、体の肩と肘と膝が鎧の様な甲殻質な物で覆われ、尻からバハディア同様に尻尾の生えた少女だ。

 彼女も竜人なのだが、男の竜人とは違い顔の造形は人間で、体も鱗などに覆われていない大部分は人間の女性と変わらない姿形と肌をしている。

 瞳の色は他の竜人同様に金色だが、瞳孔は人間と同じ円形みたいだ。


 ふむ、竜人は男と女で結構違うんだな。


 男の方は人の形をしたドラゴンって感じだが、女は人間の女性の所々にドラゴンの要素が付いているという感じだ。


 名前はどうするか……

 赤い竜人の女の子……


「うーん……よし、君の名はリーティアだ」


 うん、我ながら良い名前な気がする。


 炎属性っぽい姿をしてるし、炎の魔獣だか魔人だかのイフリートのリートの部分と、先に名付けたバハディアの語尾部分、ディアをティアと女の子っぽい感じにして融合させてみた。


 そんな感じで残り2人の竜人にも名付けて行った。


 白い鱗の男の子の竜人にはレイディア。

 青い髪の女の子の竜人にはシルティアと名付けた。


 名前を決める時に、殆どの者は自分自身で決めるか、両親から名付けてもらうかを選択したのだが、彼等、竜人の四名は全員が俺に名付けて欲しいと進み出て来た。

 まだ最初の4人のままで、交流も人口の少ないエルフ達と主にしていたからか、名前の必要性が薄く感じていたのかもしれないが、ここ数日やっていた言葉の学習やアレンジ昔話を聞いてて欲しくなったのかもしれないな。


 しかし、竜人は何時ごろ子供が出来るようになるんだろう?


 年齢も70を過ぎてるし、ステータス的には他の種族の成人と大差ないのだが、体格的にはまだ少年少女に見える。

 人間で言うなら14歳程度だろうか?

 背の高さなどは14歳のエルフィーと大差ないのだ。


 他の種族は18歳前後で大人の体格に達するみたいだが、竜人はやはり成長が遅いのか?


 もしくは食べ物が悪いのかも?

 肉などのたんぱく質が不足しているとか?


 いや、それは無いか。


 他の種族の男達も同じような食生活をしてるのにムキムキだし、女性達もしっかりとグラマーな体形をしている。

 動物などの肉を摂取してないのに、なんであんなに立派な体格になってるのが不思議だ。


 エルフィーから名前の発音の補習を受けている竜人の4人を見ながら、俺はこの問題は棚上げするしかないなと思った。

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