SELECT

本田そこ

プロローグ

鈴の音はいつの間にか

人生は選択の連続だ、と誰かが言っていた。


私は物心ついたころから、なるべく自分が正しいと思うことを選択してきたと思う。

そうすれば、物事が上手く回っていくから。

私や皆の世界が、きちんと動いてくれるから。

周りの環境もそれを後押ししてくれたおかげで、今までそうすることに苦労はなかった。


だけど、何故だろう。

時々、虚しさと寂しさが去来する。

黒くて濁った塊が、私の心臓を埋め尽くす。

頭の中を、ざらざらとした棘の波が撫ぜていく。


私は、自分の通っていく道をいつも白くて綺麗なもので埋め尽くそうとしてきたはずなのに、除かれていったはずの濁りたちは、ふとした瞬間に目の前に現れる。

目を逸らしても、視線を向けたその先には別の淀みが揺蕩っている。

私はそれから逃れられず、耳を塞ぎ、目を閉じて、その場に蹲まって、淀みや濁りが自然と消え去っていくのを待つことしかできない。

通ってきた道を振り返ることはできない。

もしも、もしもそこが真っ白に舗装された道でなくて、黒く淀んだ泥道になってしまっていたら。

そんな想像が頭を過り、私は過去と向き合うことができないでいる。


正しいことをしてきたはずだ。

皆の幸せに繋がるような選択をしてきたはずだ。

それは、自分というものを確かなものにしてくれる、そんな行動だったはずだ。


それなのに何故、私の心はざわついて、足元はふらふらと定まらないのだろう。

私が積み重ねてきた選択は、作り上げてきた人生は、どんな形を成してしまったのだろう。


問い掛けは自分の中を巡るだけで、そこに答えが返ってくることはない。

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