境界線上の生命録書
雪純初
プロローグ
とある公園。
いつもは学生や仕事帰りの大人、老人老婆が散歩がてら休憩所としても使っている。真夜中には夜遊びにはまっている大学生や中年代の大人の喫煙所にも時々なっていた。小さな池に錆が所々ある簡易な遊具(滑り台にブランコに小さな砂場に鉄棒)に公園の端にレンガで囲って作った花壇に、ベンチ一台がある、マンションの近くでよく見るどこにでもある普通の公園。そして、現在、そのどこにでもある普通の公園は無惨に破壊された《ひとつの物語の終わりを示す光景》に変わっていた。
〈 7月27日 00時:7分〉
とある公園の現在。
「──こちら
「
「
と、藤森は
「いえ、ダメっすね。未だに、見渡して手に入る情報以上の事は何も。......はぁー全く」
そう溜め息を吐いて、咥えていた煙草を吐き出す。
「そう。
「えぇ、普通なら痕跡......ここまでしたんだから、その人物、使った武器や手段、の
と、どこか
「確かにそうね。たしか、付近の監視カメラにも何も映ってなかったのよね?公園に入る人影を一人も」
「確かに映ってなかったす。というか、この公園近くにはそもそも人がいなかったので、何も映ってなくてもおかしくは無いんですがっ......」
と、そこで三船山は
藤森は、目をスッと細めて言い放つ。
「──つまり、この公園近くに人が一人もいなかった。その点が一番矛盾してる、最もありえない事って訳ね」
そう、それこそが調査してきた中で最も違和感があった事なのだ。──確かに、深夜過ぎなら人がいない部分もでてくるだろう。実際に深夜の2、3時の時間帯に人一人っ子いない路地裏や地区、街道に公園に学園といった場所も存在する。が、通報があったのは24時頃。24時を回ってまだ数分だ。もちろん、24時頃でも辺りは
そう考えると、今回もそう変わったことでも無いのかもしれない。たまたま夜遊びする学生がいなかった。偶然夜遅くに帰る大人がいなかった。運良くその時間帯だけ人一人っ子通らなかったから監視カメラにも誰一人公園に入る人物がいなかった。
──しかし、有り得ないのだ。少なくともこの14地区では。18地区27地区28地区などといったさまざまな研究機関や発電所、実験所がある地区ならたまたま偶然運良くが重なって、こういう結果になったんだと納得出来る。
だが、この14地区は深夜過ぎからこそが最も賑わう夜の街、あらゆる商業施設が建ち並ぶ、言わば地区全体が
公園など男女が
「つまり、人為的。それも人が大勢いる14区で。この公園に全く近づかせないのか、またはこの周囲の人間を消しさったのかは分からいけど、一つ確信して言えるのは、だだの一般人では出来ない『異常』の力が働いているということ」
「ってことは、やっぱり奴ら
三船山は
「まぁ、しかし
「そうね。
藤森は、風で
三船山は、その言葉に最初はピンとこなかったが、よくよく思い返してみると確かにそうだと思った。あぁ、と頭を抱え呟く。
「......それもそうっすね。奴ら、己の研鑽以外には興味無しってイメージがあるっすからね。藤森さんがそう思ってもおかしくは無いっすね」
三船山は藤森の疑問に対して「肯定」でもなく、「否定」するでもない曖昧な返答で返す。
それが藤森にとっては、可愛らしい顔をムッとさせるには十分だった。
「私、そんなに可笑しな事言ったかしら?」
藤森は声をほんの少し強めで曖昧な返答をした三船山に言いかかる。
三船山の方は、本日4本目の煙草に火を付けてぷはぁーと煙を吐く。そこに上司からの威圧な態度に
「いえいえっ!、
三船山はダラッとしたどこか余裕のある態度を維持したまま、慌てて否定する。その姿は憧れの兄貴に
「......ふぅ......、奴ら
「そんなの誤解だわッ!。彼ら
藤森は、自分が思い描いていた理想像を三船山に言い放つ。一方の三船山はどこかやりきれない態度のまま
「奴ら
最後の方の言葉は、ごく当たり前の事なのかもしれない。しかし、だからこそ伝えなければならない。小さな子供がヒーローに憧れる様に、自分には無い特殊な力を持つ
三船山は今までに無い真剣な表情で藤森に切っても切れない人間の共通点を伝える。その表情に怒りや
「ッ!?」
藤森は言い返せない。だだ驚き、沈黙し押し黙る。自分の部下に
「あっ......あ......え、............えっと......」
言葉が出ない。
「......その、えっと、............それは......」
「なんすか。『えっと』や『その』じゃ分かんないすよ。......言いたい事があるならはっきり言ってくだいっす」
「(待ってよ!今言うから!ちょっと待ってよ!声が、声が出ないのよ!)」
藤森は
目に涙を浮かべる。
三船山が自分の言葉を聞こうとしなくなる、それが時間切れの瞬間。それまでに声に出して答えを出さなければいけない。時間は遅延しているのに、心臓の鼓動は加速、加速、加速、加速する。
──待って欲しい。時間が欲しい。言いたい事はある。まだ、反論の
客観的に見たら、理解不能。意味不明。何をそこまで必死なるのか?と、馬鹿にされるかもしれない。くだらない、と吐き捨てられるかもしれない。
と、励ましのエールをくれるかもしれない。
あぁ......止めてしまえばいい。今この時、無理でもまた次の機会にリベンジしたらいい。何も恥じることは無い。ただ運悪く、成長して無い時にこの場面に
──しかし、藤森は、
「──ふ、ふざけんな。ふざけるんじゃねェェえええええええぇえええええええええええええええええええええええぇッ!!!!!」
外面も内面も関係ない。
単純な事だ。自分の理想が馬鹿にされた。
たったそれだけで、
時間の遅延?声が出ない?羞恥心?苦痛?心臓の鼓動の加速?逃げ出す?次の機会に乗り越えればいい?
何だソレは?
藤森蛍弧は、馬鹿にした三船山恵子に鋭い視線を向けて、確固とした信念、いや、
「あたし藤森蛍弧がそんなクソ格好悪い事するかってんだ!あたしを馬鹿にするのもいい加減にしろ!三船山恵子!!」
荒々しい口調で言い放つ。
可愛らしい、クールな雰囲気な彼女はそこにいない。世間から野蛮だと言われる口調。眉は
彼女を知っている人物がこの場にいたら殺到しているだろう。それほどまでのギャップなのだ。もしかすると、コレが彼女、藤森蛍弧の本当の姿なのかもしれない。
三船山はどこか嬉しそうに口を吊り上げる。
「へぇー。藤森さん、そんな口調にもなれたんですね。いやービックリドッキリだわ。部署にいる皆が聞いたら驚くだろうなー」
わらわらと
「てめェが、散々馬鹿にしたあたしの理想に謝れやコラ!てめェが持つ
最早無茶苦茶だった。
感情に任せて言葉を発するソレは他人から見たら咎める事かもしれない。
だけど、三船山恵子にとったらソレは、感情のままに子供じみた事を言うその姿は、昔見たかっけーあの頃の藤森蛍弧のソレだった。
「......まったく、少し釘を刺すがてら、昔の藤森蛍弧をまた見れるかなと、甘い期待していたけど、まさか本当に見れるなんて。それも
実際には、深い思惑は無かった。ただ、注意しておこう、とそんな軽い気持ちだったのだが、 「この件に少しは感謝してもイイっすかね」と誰にも聞かれない声量で呟く。
「......さて......」
感傷に
今も感情に任せて吠えている、藤森蛍弧に視線を向け、いつものダラッとしたどこか余裕のある態度で言う。
「いやースマンすわっ。私が悪かったすわ。だから、藤森さんも怒りを鎮めて鎮めて。ねっ!」
「本当に悪いと思ってんのか?」
「ホントっすよ。この通りに!許してくださいよっ藤森さん!」
と、頭を下げ、両手を合わせゴメンのポーズをとる。
「............まぁ、あたしも鬼じゃないしー。許してやってやらなくもないがな。知らない中じゃないしー」
さっきまでの
三船山から視線を
「いやーありがとっす藤森さん!後で牛丼奢りますから!」
「な!マジか!なら、特盛だ!!あと、お持ち帰りで並盛2つだ!」
「わかってるっすよ。まったく。牛丼好きっすねホント」
「当然だ!1個290円なんだぞ!安いし美味いし最高じゃないか!」
三船山はにこやか笑う。
「そっすね!だったら、早くこんな件チャチャッと解決して食いに行きましょー!」
「ダメよ。ちゃんと捜査しないと」
「そこはちゃんとするんすね......」
そして、二人は調査を再開する。相性は最高では無いが、それは逆にまだまだ上がることを示してもいる。
藤森はまだ知らないが、一部からとある二つ名が付いている事を知らない。その二つ名は
──「Kコンビ」とダサくとも、二人を表すなひピッタリのコンビ名だなと、三船山恵子は静かに思うのだった。
*
騒がしい現場とは裏腹に目の前の『光景』にただ呆然と立ち尽くす少年が一人いた。
日常生活ではあまり馴染みの薄い赤いライトが夜の街を照らし、KEEP OUTと空間に簡易3D拡大拡張映像機で映し出され、その『光景』に足を踏み入らせないように入り口付近に配置されていた。
少年は、
『光景』の周りに集まっている野次馬に表情を悟られないよう必死に冷静に冷静にと自分に言い聞かせるが、隠そうとしても隠しきれず、身体を僅かに震わせる。その目はまるで長年かけて地道に書き上げてきた小説を間違えて保存してしまい、2万文字だったのが250文字し激減してまった時のように、想定外の事によって自分に起きた現実に理解が追いつかず、瞼をぴくぴくと震わせる。身体全体の温度が急に上がって火照る。心拍数がドクンドクンとその回数を段々と加速させるのが分かる。胸部を中止に冷や汗が噴き出し、実際には心臓など痛くはないはずなのにまるで誰かに心臓を
傍から見ると、心臓発作にでもなったのかと 気にかけられても仕方ない姿だった。
「はぁ.........はぁ..................っ!」
一度か二度荒い息を吐き出す。
これによって、脳に酸素がいって、ある程度の思考力が戻ってきた。
2~3秒後には体の体温も低下し、火照りも消え、冷や汗も段々引いてきたので、前のめりな体を若干ふらふらしながら立ち上がり再び、目の前の現実と強制的に向き合わされる状態となった。
その『光景』を見て真っ先に抱くのは、『怒り』や『後悔』『悲観』だろうと思っていたが、抱いたのは妙な達成感だった。
例えば。
溜まりに溜まった夏休みの宿題を一日中、携帯やパソコン、ゲーム機といった電子器具をちょこちょこと使いながらダラダラと宿題をやり終えた後の妙な『達成感』のように。嫌いな体育祭を嫌々ながら準備や運営を手伝い、競技も仕方ないかとやらされた感で挑んでロクに良い順位もとれずにまるで消化試合かのように進む体育祭の閉会式後のよう
── もし、この時、抱いたのが『怒り』『後悔』『悲しみ』『無力感』といった、見方によると次への一歩に繋がる、『感情』という名の水をかさ増すことのできる材料になったのかもしれない。
しかし、少年が抱いたのは『達成感』。
少年は、こういう結果にならないように努力したはずだった。一生懸命に良くもない頭を使い、少ない知恵を振り絞り、妙な恥ずかしさやお腹が痛くなる緊張や目に見えない恐怖にも陥ったが、それでも『勇気』を持って好きでもない肉体労働をやろうと、行動しようとした。──頑張ったんだ。
「それなのに......どうして............なんでだ」
分からない。
グッと握った小さな拳を地面に向けて殴りかかりそうになる衝動を下唇を噛んで抑える。
一度この衝動にかられるしまうと後に起こるのは頭の中での止めようのない後悔の連鎖。
今まで多分、あんなに頑張ったこともなかった。平均的な人生を送ってき俺には、あんな摩訶不思議な非日常なんて夢のまた夢のような、漫画やゲーム、小説の中の物語のみたいに一生手が届かないものだと思っていた。
だけど、あったんだ!!!降ってきたんだよ!!目に見えない『何か』じゃなくて!!このちっぽけな大した『何か』も掴めなかった小さな手に!!!その『何か』を掴もうと、手を伸ばして、握って、手に入れようと、自分の物にしようと思ったんだ。......俺の平均的な日常に歪みが急にできた。それが俺が特別だったからじゃないことは知っていたし、多くの人に小さな歪みができたその中の一人だったってだけなのも気付いていた。だけど、やった、俺にもチャンスがきたって思ったんだ。俺も『主人公』や『ヒロイン』みたいに特別な存在になれるんだって。それが無理でも世界の中心的な流れに乗れるんだって。世界を脅かす敵と戦ったり、どこかで悲劇にみまわれている女の子を
それなのに、間に合わなかった。
自分に何ができるか、それを考える以前の問題だった。
何度も頭の中で後悔の念が巡る。
深く深く。思考、感情が暗い暗い底なしの暗闇に落ちていくのが嫌でも分かった。振り払おうと思っていても暗い感情は、逃してはくれなかった。そこで身体の異変に気付いた。
「......何だか寒いな............さっきまで暑かったのに。あははっ」
いつの間にか冷や汗をかいていたのか、さっきとは打って変わって身体の体温を奪っていく。加えて、目眩に若干の吐き気が身体の自由をその場のコンクリートに縫い止める。そんな状態になってある思いが込み上がってきた。......それは、今までの自分の行動、抱いた感情を......過程を自分自身で完全否定する行為だと分かっていながらも、どうしても思ってしまう。
......どうして、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?
──と、そんな現在逃避をし始めていた。
嫌だ。ここに居たくない。逃げたい。
気付けば『光景』に向けていた右脚が地面を引きずり一歩また一歩と後ずさっていた。
まだ巡り続けて頭の中を埋め尽くす後悔の念。身体と心を覆う黒い感情が自由を縫い止める。それでも、この場から早く立ち去りたい惨めでもいいから、その一心で蹲っていた体を上げて、未だにざわざわと騒いでいる野次馬たちを跳ね除けて逃げるように密集地帯から脱出する。
夜の街を照らす街灯がネオンが車から照らされるライトが携帯の光が逃げる彼の影を鮮明に濃くしていく。
その場からダッシュで逃げる少年の後ろ姿はどこからどう見ても主人公ではなく、例えるなら、決戦の場からいそいそと逃げる
そこからはもう無我夢中に走っていた。通り過ぎる人達がチラチラ見てくるが、知ったこっちゃない。どれだけ不自然だと思われてもいい。早く帰りたい。帰って、ゲームがしたい。アニメが観たい。寝たい。ご飯が食べたい。小説が読みたい。紅茶が飲みたい。いつも頭の中で妄想する世界に溺れたい。
と、
しかし、そんなことを考えながら、全力で走っていたのだからずっと続くわけがなく、走るペースは次第に落ち、身体中から汗が噴き出る。マラソン選手でも陸上部でもましてや運度神経がよくもない少年がマラソンの時のように何も考えずに初っ端から全力で走っていればその後どうなるかなど、想像しなくても分かりきっている。
ぜぇ、はぁはぁっと息を荒くしながら、いつの間にか着いていた(地区と地区を繋げる)橋の手すりに左手を掛けて、右手を右膝に置いて前のめりに立ち止まる。よくある、全力疾走し過ぎて呼吸するのが辛くなって、脇腹がなぜだが痛くなって前のめりになる。あの状態になっていた。少しふらつきながら橋の手すりに背中を預ける。心の中で息吸って吐いてを1、2回呟いて、呼吸を整える。額の汗を拭う。服の端をパタパタと扇ぐ。そして、自分の現在地を確認するべく周囲をぐるりと見渡す。てっきり、50~60mぐらい走ったかと思っていたのだが、どうやら知らぬ間に自分が住んでる家の近くまで着いていたらしい。
「はぁはぁ......驚いたなー。まさか、こんなに走れるなんて。50mも走ったらヘトヘトで動けないぐらい体力ないんだけどな。これが火事場のクソ力ってやつなのかな」
何度見渡しても、やはりあの公園の近くではないことが分かって、少し胸を撫で下ろす。公園の近くにはこんな店や人通りはないし、それに遠くからパトカーの鳴らす音に似たのが聞こえる。その音に公園での『光景』がフラッシュバックするが、さっきまでの感情は、走っているうちにある程度振り切れて、今じゃあ特に何ともない。我ながら単純だ。
「......しかし、本当に間に合わなかったのか。まぁ、あそこまで辿り着けた、ってだけで今までの俺じゃあ考えれない事だけどな」
その声色には、先程までの混じりあった感情はなく、出たのは物事が終わった後に吐き出される嘆息だけだった。
「......って言うか、これまで運良すぎだったんだろなー。こんな平均的な人生を送ってきたただの一般の高校生が『物語』って言う目に見えない特殊な『流れ』に乗れるかっての。俺じゃあ、舞台のセッティング、脇役、裏方、舞台袖にさえ上がれねー。なんせ、平均的な高校生だからな」
と、話す相手がいる訳でもなくヘラヘラ笑って目を逸らしながら言う。傍から見ると、厨二病に格好付けに加えて、気持ち悪い笑みを浮かべてる変人にしか見えないことは、彼も気付いている。しかし、止まらない。
そっと
あぁ、ひとり言だと思ってくれていい。変人だと、気持ち悪いと思ってくれてもいい。
だからさ、
「俺をそんな目で見ないでくれ......」
とても小さな声で呟いた言葉は、誰に聞かれることもなく、夜街を吹き抜ける夜風に消される。元々、誰に聞いて欲しい訳でもないのでこっちにとっては、都合がいい。しかし、ここは街道なのだから、通行人がいて当然。
自分の前を通り過ぎるどこにでもいる自分と同じ一般人が通り過ぎる間際に横目でチラッと見てくる。その一目一目が、内心を動揺させ腹を痛くする。ガチでじっと見てきた奴の時は、マジでぶわっと冷や汗が噴き出した。全員が全員何かしらの感情によって見てくる訳じゃないのは分かってる。無意識下による動作。派手な格好しているなら人目が集まるのは分かるし、それ以外、ただの通行人だってなんとなくや目を引く色の服装していたや、何の感情もなくただ見ていただけ、って人もいる。誰かを見るという行為が無意識に日常生活に広く浸透しているだけ。だから、気にする必要はない、......って思えたらどれだけいいか。ぼりぼりと頭を掻く。ふと星々が彩る光り輝く夜空を見上げたが、すぐさま所々削れている鼠色のコンクリートの地面に視線を落とす。......そもそも、たった1回失敗しただけで、何を悲観してだよ。勢いよく橋の手すりに背中をどんとぶつける。
「こんな事、よくある事だし......」
そう、こんな事はよくある事。自分が想い描いていた結末にならない事なんてよくある事だろ?だから、悲観する必要も、後悔する必要も、ましてや格好付けて言い訳を言う必要もない。ただ、いつも通りに、あぁ、こんもんか、と認識すればいいだ。............再認識しろ。
と、自分自身に命令する。それは、今までもやってきた確認。だから、容易に言葉が創れる。世界は、成功と失敗に溢れている。世界には、努力して一生懸命に生きている奴が沢山いる。自分には、努力と計画性と物事に本気で挑むやる気がなかったから失敗した。現実から逃げて、答えを後に後に先送りしている俺には目の前の物さえ掴めない。結局 ──全部、俺が悪い。
次々に
──彼の独白は、ここで終わる。
元の若干無愛想な表情に戻る。
「──さて、(帰って、アニメでも観るか)」
そして、帰路につく。
今までの行為が何もなかったかのように、首を一回二回ゴキッと鳴らして、歩き出す。
一瞬でもいいから、もう一度あの『光景』がある方角へ視線を向けたい。その不思議な衝動に駆られながら、後ろを振り向かないよう急ぎ足で前方へ進む。携帯を取り出し、LINEの記録が表示される。そこには、〈まだ、帰って来ないの?〉と母親から連絡が来ていた。〈今から帰る〉、と簡潔な内容を打ってポケットに再びしまう。
そして、ごく普通の平均的な人間はごく普通に家に帰る。道中にラノベの様なイベントは起きなかったことだけ言っておく。
......
............
..................
余談だが、彼は特別ではない。彼は小説、漫画、ゲーム、アニメといった類いの『異能』など持ってはいない。一級のフラグ建築士でもない。選ばれた勇者やヒーロー、俗に言う正義の味方でもない。彼女もいない(それは余計だ)。彼はごく普通のどこにでもいるただの高校生ではない。──当然だ。彼は主人公ではない。彼は、平均的な人生、よくある人生を送ってきた世界に大勢いる人の一
──しかし、それでも、彼は主人公になることを本当に諦めたりはしない。
これは、そんな平均的な人生を送ってきた世界に大勢いる人の一人である少年が、勇気を持って主人公になろうとする英雄譚だ──。
「──ってな。なわけないか」
と、彼は知っている。
あの場にいても何も起こらないと。
なぜなら──既に物語の1話は終わっている
のだから。
そして、彼──「
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