23-3.ルール作り
未成熟な人間同士が傷つけあわないためのルール作りは必要で、だけどルールがあるのだっていいことなのか悪いことなのかわからない。この場合は、ルールって楽をするためのものだし。
だから怠惰な私はそれにのっかる。
「いいよ。何をもらっても文句なし」
「イブと当日は忙しいから……」
「それもお互い様。クリスマス会と忘年会を一緒にやろう」
「新年会も一緒?」
「いいかも」
キスを繰り返しながら笑ってしまう。ところがナオトくんは生真面目に問い返してきた。
「ほんとにそれで怒らない?」
イベントにめちゃくちゃこだわる人もいるからなあ。そういうカノジョがいたことがあるのだろうか。
「ぜんぜん。私はこだわらないし」
それきり話を終わらせようと覆いかぶさる。なんで私の方がごまかすみたいになってんだ? と若干疑問に感じながら。
お泊りでいちゃいちゃした翌日は、私もナオトくんもお昼からの勤務で、まだ時間があるならと近くのショッピングモールにやって来た。
ファッション系のテナントの開店時間まで、モーニングをやっている喫茶店でそれぞれ雑誌をめくりながらコーヒーを飲んだ。
ナオトくんは『ステーショナリーマガジン』が好きで、置いてあると何回でも読んじゃうって言ってた。ふーん、文房具が好きなのか。
まだ来店客の少ないモール内をぶらぶら歩きながら、私が何かに注目するたびにナオトくんは「これが欲しいの?」「こういうのが好き?」とあからさまにリサーチしてくる。なるほど。ここに来たのはこういう目的があったからか。
それなら、と私もナオトくんにあれこれ質問を始めてみたのに、「はずれー」とか「ちょっと違うかな」とかして言ってくれない。おもしろがってるな、もう。
服飾品より雑貨が良さげなのは確実なんだよな、予算が二千円だし。男性向けのオフィス文房具やおもしろ雑貨みたいなのばかりに目がいっちゃって、私ってばすっかりプレゼント選びの態勢になってしまってる。
人気ナンバーワンってポップが立っているデスクで使える昼寝枕を吟味していると、ぷぷっとナオトくんがふきだした。
「え、なに? 笑う要素あった?」
「だって紗紀子さん、真剣な顔。嬉しいなって思って」
そーだよねー、本人の前でバレバレだしね。でもだって、そういうふうにすっかり誘導されちゃってたわけで。
なんか、気恥ずかしそうに笑ってるけど、あんたが仕組んだんじゃないか、ちきしょー。ころころ手の上で転がされてるよ、ちきしょー。
むっとしちゃったのを隠さずに、私はすたすた通路を進む。
「待って待って紗紀子さん。ごめん」
「そうやってからかうところ。嫌われるって自分でわかってるんでしょ」
「でも好きって言ってくれたじゃない」
「好きとは言ってない」
指を立てて念を押したのに、ナオトくんはふにゃって笑って私の手を握った。
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