20-2.ばーかばーか




「ばーかばーか。ジュンヤのクルマで一緒に帰ってればよかったのに」

「なんでもっと強く誘ってくれなかったのさ」

「人のせいにするな、ばーか。三十になったら生まれ変わるとか言ってたくせにばーか」

 不肖、田島紗紀子三十歳になりました、これからは落ち着いた大人の女性になります。と宣言していたのは確かに自分で、くそ、なんも言えない。


 ファミレスの席で私はぐったりテーブルに突っ伏す。

 にしても絵美はいつにもまして容赦がなくて、詩織が結婚しちゃったのが寂しいのかな、やっぱり、なんて私は思う。


「そんなに酔ってるふうには見えなかったけど」

 苦笑いしながら静香がフォローっぽい発言をしてくれたけど、まったくフォローになっていない、むしろ逆で私は頭を起こして力なく笑う。

「三次会に移動したのは覚えてるけども、途中からすこんと記憶がない」


「うちらそんなに長いこといなかったよ。キョウスケさんの後輩グループがどっと来て、席がいっぱいになっちゃったからうちらはこれでって感じで」

「そのへんのことを覚えてない」


「紗紀子ちゃんと荷物持って歩いてたぞ。そんでジュンヤのクルマのとこまで一緒に歩いて、なのにあんた、まだ早い時間だからぶらぶらしたいとか言ってどっか行っちゃって」

「止めてよー、もっと強く」

「ツンデレか」

「で、そんな紗紀を追いかけてきたの? そのキョウスケさんの後輩くん」

「って言うんだけどさ」


『キレイな人だなって思って』

 ふわふわ茶髪の彼、ナオトくんはキョウスケさんの高校時代の後輩で、在学期間は重なっていないけど、生徒会OBのキョウスケさんにいろいろお世話になっているのだそうだ。

『出会いがあるかもだぞって勢いで連れてかれた感じで、どうしようって思って。あ、でも、キレイな人がいる、お話したいなって。でもすぐに帰っちゃって、だからつい後を追いかけて』


「それを世の中ではストーカーと言うのだよ」

 絵美の指摘はもっともで、私もぼーっとベッドの上で彼の話を聞きながらちょっとコワイなあとは思ったけれど。

「誘導したってんなら大成功だけど」

「誘い受けかっ」


「紗紀って年下キラーだよねえ、ケイゴくんのときもさ、寄って来たのは向こうからだもんね」

「静香だって年下にモテてるんだよ?」

「でも、あたしは年下好きじゃないからさ」

「苦……ッ」


「それでふたりで飲んで意気投合してホテルまで?」

「紗紀子のいつものパターンじゃん」

 くそ、なんも言えねぇ。

「そーゆーことを、やめるとか、言ってなかったっけ?」

「ほらでも。紗紀はさ、ちゃんと身を慎んで頑張ってたよね」

「その反動ですべておじゃんにしてたら意味ないよなあ」


 うう、ここに詩織がいたなら優しく慰めてくれるんだけどなあ。詩織ちゃんは新婚旅行に出発して今ごろは空の上だ。

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