18-3.「ああああああ!!」
「あんたとはとっくに終わってるでしょ」
「勝手に決めんなコラ」
「あんたに決められるのはうんざりなの!」
この際、開き直って思いきり睨んでやる。もう引きずらないって決めたんだ。こんな奴関係ない。
私の強硬な態度にヤツも顎を引いて睨みつけてくる。
少し黙った後、なぜか視線を逸らして私の肩を掴んだ手に力を込めて、ヤツはぼそっと吐き捨てた。
「おまえの匂いが消えないんだ」
なんだそれ。そんなの私だって同じだ。
煙草の匂いと芳香剤の香りが混じった気持ちが良いとはいえない下宿の部屋の匂い。缶コーヒーを飲んだ後のキスの味も。どれもが身に沁み付いたように消えない。
だからってそんなものを後生大事に抱える腕なんかない。私はこの手で、新しい男を抱くんだから。
私が表情を動かさないでいると、ヤツは覚悟を決めるように息を吸い込んで真正面から私を見た。
「いいか。一回しか言わないからよく聞けよ。……すっ」
「ああああああ!!」
ヤツの声に被せて、由希ちゃんが大声を出した。
びっくりした私の腕を引っ張ってヤツから引き剥す。
「紗紀子さん。聞いちゃダメですよ。耳が腐ります」
「う、うん」
唖然としているヤツを無視して由希ちゃんが私の手を握って歩き出す。
かと思うと、激しく舌打ちして彼女は足を止めた。
視線の先に、今度は林さんがいた。
なんですか。今日は厄日なのかな。
ついつい由希ちゃんの手に縋ってしまう。
「田島さんに話があるんだけど」
「そうですか。じゃあここで話したらどうですか」
そっけなく言う林さんに由希ちゃんもそっけなく返す。なんだか由希ちゃんが私のガードマンみたいになってる。
眉間を寄せて林さんは私を見る。
「なんでしょうか」
由希ちゃんの後ろに隠れてるわけにもいかないから私は平静を保って林さんに向かう。
「起業する」
強い声色に私はちょっと目を瞠った。今までなかった覇気みたいなものをこの人から感じて。
「君に手伝ってもらいたいんだ」
「は? なんですか? 紗紀子さんにあんたの下で働けって言うんですか?」
おいおい。今日はどうしてそんなに攻撃的なんだよ、由希ちゃん。
私の方がハラハラしてしまう。言いたいことは同じだけど。
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