15-7.ありえない

 背中をぽかぽか殴ってやったけど聞きやしない。

 部屋に入ってベッドの上に放り投げられて私は悔しくなる。

 悔しい、いつもこうやってヤツのペースで。


「何をそんなに怒るんだ?」

「物には順序ってものがあるでしょ。いつも好き勝手に引っ張りまわされて、あんたのそういうところが我慢できない。ましてや今更こんなことされたって」

「それこそ今更だろ? 俺がこういう男だってよくわかってるだろ。おまえがいちばん俺をわかってるから言ってるんだ」

「だからそういうところが……」


 思わずまたこぶしを振り上げる。

 するとヤツがぎゅっと抱きしめてきた。正面から抱きすくめられて身動き取れなくなる。

「よしよし。まあ、落ち着けや」

 力づくで抱き止めつつ背中をぽんぽんされる。

 なんだこれ。子どもみたいに。


「怒るなよ、な?」

 ゆらゆら揺れながらそのまま横たわる。苦しい。なんとか顔を背けて息をつく。

「俺が悪いんだよな」

「そうだよ」

「ごめんな」

 なにさ、今更。急に素直になられたってこっちだって困る。

 私も腕を回してヤツの胸に顔を押しつける。


 バカだ。ここで涙が出るなんて、まるでこいつのことがずっと好きだったみたいじゃないか。ありえない。ありえないのに。

 女心なんてころころ変わる。こんなふうに寄り添っているからそんな気持ちになってしまっただけ。そうじゃなかったら、私って都合のいい女すぎる。


 そんなふうに考えてみても、涙が止まらなくて。

 洋服越しに感じる体温は情事のときの熱さとは違う。ただただ温かくて。

 忘れていたな、こういうの。

 思ったら、どんどん泣けてきた。泣くのなんて久しぶりでいくらでも涙が出てきた。


「冷たいよ」

「ごめん……。タオル取ってきて」

 苦笑いしてヤツは離れる。

 持ってきたのはバスタオルで、いくらなんでもこんなに泣かないよ、と思いつつまた込み上げてきた。


「いろいろ我慢してたんだな、サキ」

「そうなのかな……」

「おまえはすぐお姉さんぶるからなあ」

 だって、頼られれば嬉しいし、無理したって頑張っちゃう。性分なんだよ。


 またしばらくシクシク泣いた後、ここがどこだか思い出して聞いてみた。

「しないの?」

「何、おまえやりたいの? やらしいヤツだな」

 笑いをもらしてヤツは私の頭を抱き込む。

「泣いてる女の服を剥くほど悪趣味じゃないし飢えてもないんだよ。おまえに散々搾り取られてやりたい盛りはすぎた」

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