13-2.「うるさい」
リビングを覗くと、父親と弟は昼間から始めていた。
「おう。おまえも飲むか」
「飲まないよ。クルマで来ちゃったもん」
素通りしてロールケーキを台所に持って行く。母親はそこでおせちを重箱に詰めていた。
「いらっしゃい」
「おめでとう」
「何がめでたいもんさね、またひとつ年をとるんだよ」
顔を見るなりヤなこと言うなよ。
「ケーキ買ってきたよ。おやつに食べよ」
「ケーキ、ケーキ!」
「サキコ、オトシダマは?」
「サキコチャンって呼びなさい」
まったく、子供はすぐに纏わりついてくる。
「おめでとうございます」
「うん。おめでとう」
「おめでとう」
父親と弟に挨拶してこたつに座ったはいいけど、しらーっとした空気が流れる。
まったくさあ、生まれ育った家がこんなに居心地悪いってどういうことさ。
「お義姉さん、お茶でいいですか?」
「おかまいなく。飲みたくなったら自分でやるから」
「サキコチャン。人生ゲームやろうぜ」
「やだ」
正月から落ち込みそうなことはしたくない。
「あんたたちうるさいから。部屋で遊んでよ、ね」
「やだ。公園行きたい」
「行きたい」
困った顔をした美樹ちゃんだったが。
「そうだね、おやつの前に遊んでこようか」
立ち上がって台所の母親に声をかけ、美樹ちゃんはふたりの子どもを連れて出ていった。
近くの公園に行くのだろう。気を使ってくれたのかな。
思っていると父親も立ち上がって廊下の方に行ってしまう。
すると弟が私ににじり寄ってきた。
「やい。紗紀子」
「なにさ」
「おまえどうするんだよ? ちゃんと真面目に考えてるのかよ」
何を言いたいのかはわかってるけど私は敢えて黙る。
「父さんだって母さんだって、お前が結婚すんのを待ちに待ってるんだぞ」
あー、うるさい。弟のくせに。
私は黙ってミカンの皮を剥く。
「おまえが呑気にしてる間に父さんぽっくり逝っちまったらどうすんだ。死んでも死にきれないだろ」
「こら。縁起でもないこと言うな」
「そういうことだってあり得るってことだよ。だから早く結婚しろ」
「うるさい」
私はミカンの皮を投げつけてやる。
帰ってくるたびにこうだから帰りたくなくなるんだよ。
この弟は独身貴族を謳歌している私と正反対で、なんと二十歳でデキ婚した。
名古屋で学生していたとき、交際相手のひとつ年下の美樹ちゃんを妊娠させてしまったのである。
泡を食ったうちの両親は彼女の両親に頭を下げに赴き、その場で弟は大学を辞め、ふたりは結婚することに決まった。
そもそもが変わり者な弟は、勉学にはあまり興味がなかったからあっさりしたものだった。
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