8-5.臆病

 どんな対応をするかでコウジのほんとの度量がわかる。逃げ出すならそれまでだし、ここで態度を改めて、ふたりのどちらかとは付き合うもしれない。

 どうなるかは誰にもわからない。男と女はそれぞれだからさ。


 想像してみて面白くなったのか、理沙と順子はほくそ笑んで頷き合っている。

 それで改まって正々堂々オトコを取り合うならそれもよし。まあガンバレ。


「お腹すいた。ごはん食べよう」

「そうだ、そうだ。壮行会でパーッとやろう」

 なんだそれ。ノリノリの絵美にみんな苦笑いして、だけどその後は食べて歌って、なかなか楽しかった。





「確かに、男としてはそれは当然かな」

 私の話を聞いた圭吾くんはさらりと笑う。

「こっちが駄目なら次はあっちにって。候補は常に複数……」

 言いかけて、私の顔色を窺う。

「わかるよ。女も同じだもん」

 ワインを注いであげると、ちょっとバツが悪そうに顔をしかめる。カワイイから許してあげよう。

「オレ二股はしないよ」

「信じてあげましょう」

 疑うのも疲れるからね。


 今日はお互い仕事が早く終わったので、この前のワイン食堂で待ち合わせた。

「このお店好きなの? 職場が見えるって微妙じゃない?」

「だからいいんだよ。他の奴らが仕事してるの眺めながら飲む酒は最高。……性格悪い?」

「私はキライじゃないよ」

 ここのお店はお肉も美味しいしね。


「食べたらウチ来る?」

 イケメン圭吾くんは誘い方もスマートだ。

 私は笑顔で首を横に振る。

「部屋デートはしない主義なんだ」

「どうして?」

「部屋ってさ、ひとり暮らしならなおさら、自分のテリトリーなわけでしょ? そこを簡単に荒らしたくないし、荒らされたくもない」

 釘を刺してるわけじゃないけど、私にとっては大事なことだ。気を悪くするならそれはそれでかまわない。


「紗紀子さんてオオカミみたいだね」

 それはどういう意味かな? そりゃあガツガツしてるけど。

「オオカミって臆病なんだよね」

 いたずらっぽく微笑う圭吾くんの瞳は意外なほど澄んでいて、この子はやっぱり侮れないと私は思う。


 臆病なのは当然だよ。そうでなければ自分の身は守れない、生き抜けない。

 人間だって動物だ。当然の本能だよね?

 そしてときには群れたくだってなる。人恋しいというやつだ。


 ひとりでいたいとも思うし、ひとりは寂しいとも思う。

 なかなか難しい年頃なんだよ、私もさ……なんてことを言っても仕方ないから、私は黙ってグラスのワインを飲み干した。

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