8-4.お互い様

「どう思う? 紗紀子」

 にやにやと絵美が私に振ってくる。この女は完全に面白がっている。

 まあ、この場の反応としては至極真っ当だよなあ。私だって笑いたい。男も女二人も年甲斐もなく何をやってるんだか。


「えーとね、まずはあんたたち。全員お互い様だから」

 は? と理沙が真っ先に声をあげたから私は理沙と視線を合わせる。

「じゃあ、あんたは誰が悪いと思うのさ?」

「そりゃあ、二股かけようとしたコウジでしょ? 違うの?」

 口を尖らせた理沙に私はにんまり笑って見せる。


「二股っていうけど、あんたら付き合ってるわけじゃないでしょ。酒の勢いでチュッチュしちゃっただけでしょ? それでもう彼女ヅラ? どこの生娘ですか」

 ぐっと理沙が顔を赤くする。

「男にしてみれば両方にモーションかけて、どっちかモノにできればいいって、その程度の肚でしょうよ」

 いくらなんでも二股かけるほど豪気でもないだろうよ、コウジは。


「あんたにしたってユウタくんでもコウジくんでもどっちでも良かったんでしょ? 押しが来ればどっちにでも靡くつもりだったんでしょ? 違う?」

 これで理沙はぐうの音も出ず完全に押し黙った。

 順子はそんな理沙を向かいから上目遣いにじとっと見つめている。


「次に順子。敢えて言わせてもらえば、あんたの対応がいちばん悪い」

「え、どうして」

「どうして、すぐに正直に自分もコナかけられたって言わなかったのさ?」

「それは……」

「自分に落ち度はないと思ってるなら、どうして静香に泣きついたのさ? 自分が正しいかどうなのか、自信がなかったからじゃないの?」

「……」

「良い人面して、だけどやっぱり後ろ暗い気持ちがあったんでしょ?」

 順子は悔しそうにくちびるを噛み締めている。


「というわけで、あんたら三人ともお互い様だし、誰も悪くない」

 こんな気分の悪い話は早く終わらせるに限る。

「誰も悪くない。それでいいでしょ?」

 全員を見回すと、絵美と静香が大きく頷くのに合わせて理沙と順子もしぶしぶ頷いた。


「でも、じゃあさ」

 おずおずと理沙が口を開く。

「コウジの奴にはオトガメなし?」

 とんでもない。

「デートの約束っていつ?」

「明日」

「じゃあ、理沙も順子も行ってくればいいじゃん」

 私はにやりと笑って足を組む。

「そんで言いたいこと言ってきな」

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