6-4.まあいいか
私自身も、家で食事するとき鏡を置いたりして食べ方に気をつけるようになった。比べて、圭吾くんの仕草は実に板についていて、育ちの良さを思わせる。
「地元ここだよね?」
「そうですよ。紗紀子さんは?」
「私もずっとここ。大学も家から通ったし」
「それなら、オレの実家すぐわかると思う。目立つ場所にあるから」
その通りで、場所を説明されて、すぐに思い浮かべることができた。ああ、あの大きな家かって。
「お坊ちゃまなんだねえ」
「親が歯医者なだけです」
「後継ぎ?」
「まさか。もう兄貴が共同でやってます」
圭吾くんは苦く笑ったけど、彼がお坊ちゃまなことには変わりない。
お坊ちゃまかあ、少しメンドクサイなあ。
「オレのこと値踏みしてるでしょ」
ワイングラスを回しながら、圭吾くんはちらりと私を見る。
「それはお互い様」
ワインを舐めて笑い返してやると、彼もにこりとした。
「オレ、がちゃがちゃした女性は苦手なんです。シズカさんと紗紀子さんは、落ち着きがあっていいなって思った。それで紗紀子さんの方が好みだったから」
それは光栄。でもさ。
「そりゃあ、年が年だし。落ち着きがなかったら、逆に恥ずかしい」
「そうですか? 年は関係ないと思うけど」
「仕事で若い子ばかり見てるから、そう思うんじゃない?」
「いわゆる熟女も来ますよ。平日のランチタイムなんかマダムでいっぱい」
「へーえ」
今どきの主婦は優雅だなあ。
「圭吾くん、いくつだっけ?」
「二十三です」
祐介と同じかあ。
「ダメですか?」
そんな可愛く言われたら、ダメとは言えないなあ。
そう。私は駄目な大人なのだ。
上品な男はエッチも上品だった。物足りない。一度目だもん、仕方ない。
とはいえ、勢いに任せてホテルになだれ込んでしまったことを後悔しないでもない。
知り合ってからセックスまでの期間が短かい男とは長続きしない。それが私のセオリーだ。
体を重ねるまでに時間をかけた方が、それに比例して関係が長続きすると思う。まあ、私の個人的見解だけどさ。
しくじったかなあ。もっと段階を踏むべきだったかなあ。今更思っても遅いけどさ。
枕を抱いてもやもやしてたら、シャワーから戻ってきた圭吾くんが可愛くキスをしてくる。
「これで恋人ですね」
まあいいか。可愛いから。
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