6-2.直球

「いつまでも一人でいたらいけない。男の人と付き合って結婚して、子どもを産んで……そういう道筋の方に、自然に押されてる感じがする」

「あんた結婚したいの?」

 ふと私がした質問に、びっくりしたふうに順子は言葉に詰まった。

「う、うん。そうかも」


「だったらさ、友だちがツテの合コンじゃなくて。職場の人と仲良くなるとか、婚活パーティとか行った方がいいんじゃないかな」

「そうだね。友だち同士だとさ、軽いノリになっちゃうからさ、結婚までいくかどうかは正直ねえ。真面目に結婚を考えてる人の集まりに行った方が、いいと思う」

「そうか……」

 私と静香の言い分に順子は戸惑ったふうに黙る。


 きっと自分が何をしたいのかだって、はっきりわかっていないのだろう。そういう微妙な年齢なのだ、私たちは。

「まあ、いいや。とにかく明日は楽しんだら? せっかくだからさ」

 重くなった空気を振り払うように私は言った。





 翌朝、スマホの着信音で目が覚めて、私は布団の中で重たい頭を上げた。

 そんなに飲んだわけじゃないけど夜遊びの後は体が重い。年を取ったな、と思う。


 どうせ詩織か絵美だと思ったのに、メッセージ画面に見慣れない名前とサムネがある。昨日知り合ったイケメンくんだった。

 昨日はおつかれさまとか、これからよろしくとかの中身のないメッセージだったら無視しようと思ったのに、内容は前置きナシの気持ちがいいくらい直球の、ランチのお誘いだった。


 なんだこの子、見込みがあるな。思って私はオーケーの返事を返す。

 ここでまたどこの店がいいですか、とか待ち合わせはどこで、とかうだうだするようなら、やっぱり断ろう。

 だけどすぐさま届いた返信には、有無を言わさず場所と時間が記してあった。今どき珍しい男っぷりだ。

 私は嬉しくなって、何を着て行こうかと考え始めた。




 なんといっても一回目のデートだしどうせ近場で昼間だから、ジーンズにピーコートという普段着で、メイクもいつもどおりで私は出掛けた。

 駅前通りのアミューズメントビル。多分この中にあるワイン食堂か、ピザがメインのイタリアン食堂が目的だろうと予想して、クルマは置いて来た。だったらワインが飲みたい。


 イケメン青年圭吾くんは、映画のポスターを眺めながらビルの前で私を待っていた。

 カジュアルな格好でニット帽を被っている。長めの襟足が気になって、切ってやりたくてうずうずしてしまう。

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