4-5.付かず離れず
努めて冷静に返した私に、絵美は情けなくも宣った。
「恥ずかしいよ。あれって男が買うモノでしょ」
お馬鹿さん。
もう叫ぶ気力もなく、私は絵美を連れてショッピングビルの中のドラッグストアに行き、有無を言わせずコンドームを買わせた。
話を聞く限りそのドラマーは、今度は付け方がわからないとか言い出しそうな予感がして、私は先回りして絵美に確認する。
「付け方わかる? パッケージに書いてあるから大丈夫だと思うけど」
絵美は不安そうな顔をする。そうだよね。
ビル内の化粧室の鏡台の隅で、私は絵美に付け方をレクチャーした。
「抜くときも根元を押えてズレないように、そうっとね」
「うん……」
「終わったら小さくなる前に抜くんだよ。うっかり奥に入っちゃって取れなくなって産婦人科行った、なんて人もいるんだからね」
「う、うん……」
そうしてしばらくはゴムを使っていたけど、やがて男が面倒だと言い始めた。やっぱりねと、私は絵美に断固として言い切った。
「私を好きならちゃんとしてって可愛く頼むんだよ」
「うん」
それでももったのは数回だけ。私はオーラルからの流れで装着してしまうことを提案した。
「口に出すまで続けろって言われるよ」
「我慢できない、早く早くって言えばいいよ」
私も半ば、意地になっていたかもしれない。
辛抱強い絵美はその男に二年も尽くして交際を続け、やがて男は夢とやらを諦めて故郷の九州に帰っていった。
もっと早くに帰ってくれれば良かったのに。
そいつと別れた直後の絵美は、しばらくの間抜け殻みたいになっていた。
入れ込むほどの男なんかじゃなかった。それは本人にだってわかってたはずだ。
だけど、一度燃え上がったらどうにもならないのが恋愛だ。燃え尽きて、後には何も残らなくたって、きっとそれも……。
「良い経験だよ」
厳かに絵美がつぶやいて、皆の視線が集まる。
「大事にならなかったことに感謝してさ、これも経験だって受け止めるしかないよ。もう二度と同じ間違いはしないって心に決めてさ」
「そうだねぇ」
詩織が優しく頷いて目を細める。
「今度順子のことも誘ってみる?」
「ええ? 私覚えてないんだけど」
「冷たいなあ。紗紀子は」
女同士はシビアだけど。ときには冷淡に距離を置いたりもするけれど。
だから付かず離れず長続きする。友だちは、人生の宝だもんね。
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