3-2.しゃーない恋愛
「どうして? 職場の人と結婚する人って多いじゃない」
結婚相手を探すならね、職場は有利だと私も思う。なんと言っても、仕事に対する姿勢を間近で見て吟味できるのだ。
その人がちゃんと仕事ができる人なのかどうなのか、複雑怪奇な職場の人付き合いを無難にやりこなせる人なのかどうか。結婚相手とするならば、そこの見極めは大事だ。
生きるイコール生活イコール仕事。社会人として、それはもう仕方がない。結婚するなら職場で相手を探すのは当然だ。
だけどさ、そこまで至らずに別れるようなことになれば社内恋愛はリスクが伴う。
「社内恋愛、しゃーない恋愛って、言いますもん」
「なんですかそれ。駄洒落ですか?」
うんちくを披露すると由希ちゃんに思いきり馬鹿にされた。
「アイドルグループの歌の歌詞にあったんだよ。知らないの?」
「知りませんよ。いつの歌ですか」
そうか、知らないのか。そんなに年齢違わないはずなのに。
少しショックを受けている私の横で、弥生さんは上の空の様子でぽつりとつぶやいた。
「しゃーない恋愛……」
どことなく虚無感が漂っている。
気になって私が表情を窺うと、弥生さんはにこっと笑顔になって言った。
「そうそう、コンパね。今度私も仲間に入れてよ。頭数足りないときにでも声かけて。どうせ暇だから、ピンチヒッターででも駆けつけるよ」
その日は午後になって面倒なことが起こった。
「もう! リピート品以外の特急品は受けないで下さいって言いましたよね! キャパオーバー! 年内はもういっぱいいっぱいだって、言いましたよねっ」
社長が新規の、しかも大口の急ぎの注文を、ほいほい引き受けてしまったのだ。
「外注でなんとかしてよ」
「なんとかなりません! どこもいっぱいいっぱいだって言いましたよねっ」
それでなくとも新規品は、まずはできるかできないかの相談から始めなくてはならない。試作段階もなく飛び込みとなれば、基本的にどこの工場もやったことのない加工には尻込みする。
しかもこれは大物だから場所が確保できてクレーンのある会社にしか依頼できない。
「うちは建築屋じゃないっていつも文句言ってるくせに、どうしてこんな大物ばかりを引き受けちゃうんですかっ」
「だってさあ。断れなくって」
うちの社長はイエスマンだ。だからここまでのし上がったという側面もあるのだが。
あー、もうどうしよう。パソコン画面の外注先リストをスクロールしながら私は頭を抱える。
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