2-2.学生ならでは
「へえ? 元気なの?」
「相変わらずバリバリみたいです」
この四月にうちの会社の担当になった秋山さんは、まだ幼さの残る顔立ちに、素直に感心の色を浮かべる。
「バリバリですからね。憧れです」
確かにヤツは、実にやり手であった。
やり手すぎて人を利用することを屁とも思わない。だけど調子がよくてレスポンスが早いから、社長さんたちから可愛がられる。
うさんくさい営業マンそのもの。そういう男が出世する。
「佐藤くんね。金融庁に行ったんだっけ? いずれ戻ってくるんでしょ」
日帰り温泉施設の露天風呂で、のんびりお湯に浸かりながら絵美が質問してくる。
「みたいねえ」
「戻ってきたらあとは支店長コースまっしぐらだよね」
のほほんと、詩織も言う。
「もったいないことしたなあ、紗紀子。別れなければ支店長夫人になれたじゃん。今からでもより戻せば?」
思ってもないことを意地悪く言ってくる絵美の顔に、軽くお湯をかけてやる。
「たかが地方銀行の支店長夫人って、なにそれ。エライの?」
「毎朝さ、出勤するダンナに、こう鞄を差し出して、行ってらっしゃい、あ・な・た、とかって」
「うわー、紗紀ちゃん似合わないねー」
まったくこいつらは。
「あ・な・た、なんてかしずいてられる性格なら、そもそも別れてないよ」
何を隠そう、件の佐藤くんと私は、大学時代にお付き合いしていた。学生時代にみっちり濃厚に恋愛して、あっという間に冷めてしまった。
だから職場の人たちはそんなことはもちろん知らない。
「昔からお調子者だったもんね、彼」
「紗紀ちゃん付き合ったとき、ちょっと意外だったよねー」
「私も若かったからさ」
あれよあれよという間にヤツのペースに乗せられモノにされてしまっていた。ヤツは実にやり手だったのだ。
今にして思えば、初めてまともに付き合う相手としては標準的で良かったとは思ってる。
未経験のところにわけのわからない男に寄ってこられてひどい目に合わされた女の子の話を、私たちはたくさん知っている。経験のないまっさらな状態に異常性を強いられ、それが当たり前だと思い込んでしまう子もいるのだ。本当にかわいそう。
その点、私は学生らしいお付き合いができて良かったと思ってる。
学校さぼって性行為に耽るって、まさに学生ならではだ。大人になったらとてもそんなことはできない。
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