1-3.予感
「サキコさん、もうやばい……」
「まだ駄目」
まだまだ私は満足してない。何せ三週間ぶり。今日ばかりは手加減しないよ。
とはいえ、明日も朝から仕事でお泊りできるわけでもない。体がしんどくなるのはいやだなあ……なんて男の上で考えたりするオンナってどうよ?
でもさ、どうしたって現実的なこと考えちゃうんだよ。
若さの最盛期をすぎて社会的な責任ってものまで身に染みてわかり始めた今、無茶はできないんだよね、やっぱり。
今日は体調も良いし楽しみにしてたけど仕方ない。
二回戦三回戦はできそうにないから最高の一回にするべく準備を整える。
良い感じに高まってきたところで、体の位置を入れ替えて私は祐介に許しを出した。
「いいよ、動いて」
なんだかんだで色つやよく翌日出勤すると由希ちゃんににやにや笑われた。
「楽しかったみたいですね、昨日」
「まあね」
始業時間まではコーヒーを飲んだり、スケジュールの確認に来る社員さんたちとおしゃべりをする。
やがて定刻になって簡単な朝礼の後、業務が始まる。
届いたファックスを確認していると、昨日終業間際に送信した見積書にオーケーが出て注文書が届いているのがわかった。
「うひょー。言い値でオーケーなんですか? これ」
思わず声をあげてしまったら、奥のデスクのモニターの影から、社長が顔を覗かせのほほんと眉を上げた。
「そ。いい会社でしょ」
「さらっと割り増ししておいたんですよね。アコギですよねえ」
したり顔で言う由希ちゃんに社長は鼻を鳴らす。
「馬鹿言うんじゃないよ。適正価格!」
「じゃあ、材料手配しますよ」
「うん。多分継続して注文くれるだろうから向こうの経理と条件確認してね」
「あー、てことは、二回目三回目で買い叩かれるパターンですかね」
「苦……っ」
由希ちゃんの突っ込みにぐうの音も出ず、社長は顔を引っ込めた。
午前中は通常業務をこなして平和に時間がすぎた。
お昼は由希ちゃんも私もお弁当だから机の上でそのまま食事を広げる。
スマホでニュースをチェックしながらコーヒーを飲んでいたら、メッセージが届いた。祐介からだ。
内容を見た私はうーんと眉根を寄せて頬杖をつく。
「どうしたんですか?」
ファッション雑誌から顔を上げて尋ねてくる由希ちゃんの可愛らしい顔を見つめて、私は少し考える。
「彼がね、今夜会いたいって」
「へえ、嬉しいじゃないですか。いいですよ、定時で帰っても」
だからなんで、あんたが上から目線なんだよ。思ったけど私は無言で眉間を揉む。
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