第7話 青年の行方
「本当に答えて欲しいのか?」
「はい……。」
「どんな答えになろうと?」
「……はい。」
「じゃあ、私の推測を教えよう。」
「……ありがとうございます。」
「彼は一体、どこへ行ったか分かりますか?」
「君は少年の言葉を疑ったことがあるか?」
「……どういうことですか?」
「例えば……家に居る理由、彼は病気ではないと言ったよね?」
「……。」
「嘘…かも知れないよ。」
「彼は一体、どこへ行ったか分かりますか?」
「良く考えてみたら、両親共に仕事を辞めて、ずっと家に居るのは変だろう。」
「……そうですね。」
「だが、それは少年の為だったら?」
「……。」
「彼は一体、どこへ行ったか分かりますか?」
「少年が手術を勧めた時、多分、既に自分の健康状態が分かっていたんだろう。」
「……。」
「合ってるかどうか分からないが、少年の病気は多分結構長い間のものだと思う。」
「……。」
「彼はきっと、最後に、自分の角膜をあげたいと思ってただろう。」
「……。」
「体がどんどん悪くなっていて、君に気付かれたくなかった。だからこそ、君が手術すると決意した後、わざと会わないようにしただろう。」
「……。」
「彼は一体どこへ行ったか分かりますか?」
「彼は多分事前に、自分の両親、君の両親そして周りの人達に言ったんだ。絶対、君に真相を教えるなと。だから、君が周りに聞いた時、皆んなは……。」
「……。」
「彼は一体、どこへ行ったか分かりますか?」
「だから……私が君にあげられる最後の答えは……。」
《死亡》
「あの少年は……恐らく……亡くなったんだろう……。」
「……。」
「……。」
「……嘘です。」
「いや、彼は……。」
「嘘ですっ。どうして、どうしてこんな答えを教えるんですかっ。」
「……。……すまん受け止める覚悟が出来たと思ったが。」
「私、私……。私だって、可能性は考えました……。それでもっ、納得できないんです!」
少女は遂に泣き出した。
「そんな答えなら、彼は最初から居なかった方がマシです! 約束したのに……何で約束を守らなかったんですか! こんな答え…納得できません……。真実だとしても……。できないものは、できないんですっ!」
少女の裾は既に涙塗れになっていた。慰めようとはしたが、今はたくさん泣いた方が良いだろう。
「彼はきっと戻ってきます。きっと戻ってきますよね? 彼は言いました。色んな所へ連れて行ってくれるって、たくさん本を買ってくれるって……。なのに彼は……。私はもう、一人で見知らぬ場所へ行きました。本も一人でたくさん読みました……。そうしたら、彼が目の前に現れそうな気がして…全部はただの冗談だって教えてくれて……。なのに……彼は、戻って来ませんでした……。最初は、ただの目の代わりだと思ってました……。でも、気付いたんです。私は彼の側から、離れません…。彼は言いました。改めてこの世界を見せたいって……。でも、世界が見えても、一番会いたい人には……もう二度と、会えないんです! 彼の声だけは覚えてます。優しくて暖かい声……。でも、意味無いんですっ。彼の顔すら分からない……。彼が唯一残してくれたもの……それは目の前の光だけ……。それなら、暗闇だけど、彼が側に居る時の方が良かったです……。でも現実は戻れないんです……。」
少女は段々落ち着いて来た。腕を押さえ、小さく啜り声を上げた。
「泣きたいなら、思い切って泣こうな……。」
「……はい。」
少女の様子を見て、私は窓の方を向いた。誰でも自分のストーリーを持っている。このような話は、もう何度も聞いたことがある。だが、私が与えられるものは、言葉での慰めだけだ。それ以外にも、やるべきことがある。
考え事をしたら、少女はもう落ち着いた。
「ごめんなさい……人前でこのような失態を……。」
「大丈夫だ。」
「その後も、ずっと諦められなくて……。だから、この列車に乗ったんです。噂の終点の景色を見たくて。」
「そうだったのか。」
「話に付き合ってくれて、ありがとうございます。嬉しかった……です。」
「私もだ。じゃあ、そろそろいいかな。」
「はい?」
「切符をお願いします。」
「……え?」
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