第33話 エルフの予言者ポポス
「人間嫌いのポポス様がこの者たちと会われるというのか……信じられん」
パウルの驚いた表情が事の大きさを表していた。
「ふふーん。なかなか話がわかるじゃないか。そのポポスってやつも」
ミレノアールは腕を組み、勝ち誇った顔でパウルを覗き込んだ。
「ポポス様がお会いになられるのでしたらルーシーちゃんも呼んでこないと」
その場の雰囲気に居心地の悪さを感じたマシェリは、一足早く席と立つとルーシーを探しに表に出て行った。
「ポポス様はエルフの中でも最長老だ。失礼のないようにしろよ!」
「はいはい。先に濡れ衣を着せたのはそっちだけどな」
そんな言い合いの中、外に出るとマシェリとルーシーがこちらに向かって走って来るのが見えた。
「師匠ー! エルフのスゴイ人に会えることになったんでしょ!?」
「ああ。偉いエルフらしいから変なこと言うなよ!」
ルーシーと合流して4人で聖樹マリアリベラのもとにあるポポスの住む部屋へと向かった。
「あのーミレ様。ポポス様は先ほども言われたように人間嫌いでして。もしかしたら驚かれるかもしれませんが、その……」
「ん? 何か驚くようなことでもあるのか?」
「いえ。そういうわけではないんですが…… あ、着きましたわ。ここです」
マシェリの歯切れの悪い説明を聞きながら少し歩くとすぐに目的地に着いた。
聖樹マリアリベラは下から見上げると、その大きさは圧倒的だ。
「すっごーい! 下から見ると一番上が雲で隠れて見えないや」
「樹齢何億年なんだろうな」
2人は感動のあまり口が開きっぱなしになっている。
「おい、行くぞ! ポポス様がお待ちだ」
痺れを切らしたパウルが声をかけた。
聖樹マリアリベラの根元には、その一部をくり貫いて作られた部屋があった。
外からは扉と小さな窓が一つ見えている。
「扉の向こうからスゲェ魔力を感じる」
「今さら尻込みしてるのか? ポポス様の魔力はここの誰よりも強いぞ。もちろんこの俺よりもな」
パウルが扉を開けると、ブワっと風が流れ込むようにさらに強い魔力がミレノアールの肌を通り抜けた。
ミレノアールは今まで感じたことのない程の魔力に一気に緊張感が高まった。
「ポポス様、例の人間たちを連れて参りました」
扉から中に入ると、そこには6畳ほどの部屋とその真ん中に
囲炉裏の向こうには座布団の上に横になっている『黒猫』が一匹。
「わぁ~!! にゃんこだー! 可愛い!」
ミレノアールが威圧感の正体を探すよりも先に、ルーシーが黒猫に飛びついて撫でまわした。
「あっ! 人間の小娘! 何やってんだ!」
「ル、ルーシーちゃん…… その方がポポス様よ」
慌てふためくパウルとマシェリ。
「え? ……このにゃんこが?」
「確かにそのにゃんこ…じゃないネコからは凄い魔力を感じるな」
ルーシーは撫でる手を止めて、自分の頭が座布団に付くくらい傾けると、その黒猫の顔を覗き込んだ。
「よいよい。どの種族であろうと子供というのは無邪気でなくてはならんぞ」
黒猫の姿をしたポポスの声は、実にしゃがれた老人の声そのものだった。
その声を聞いたルーシーもようやくその黒猫=ポポス様ということを理解したようだ。
「ごめんなさーい」
ルーシーは、ばつが悪そうにミレノアールの後ろに隠れた。
(マシェリが説明しようとしてたのは、
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。もとは
人間嫌いと聞いていた話とは裏腹にポポスは景気よく笑って見せた。
「お、おい。人間嫌いじゃなかったのかよ?」
ミレノアールはマシェリにこそっと耳打ちをして尋ねた。
「あれ? おかしいですね…… 私もそう聞いていたんですが……」
囲炉裏を挟んでポポスの反対側にミレノアールとルーシー、もう一辺とその反対にパウルとマシェリが座った。
「ポポス様の予言通り、先ほど里の近くの森で彼らを見つけました。こちらの魔法使いがミレノアール、そしてこの人間の子供がルーシーです」
「ご苦労じゃったの」
パウルが手際よく紹介を終えるとポポスは前足で招き猫のようなポーズをとった。
「ポポス様、この方が『世界を滅ぼす者』で間違いないのでしょうか?」
マシェリは心配そうにポポスに尋ねた。
「そのことだがよ! いったいどういうことなんだ? じいさん、あんたの予言のせいでエライ目に合ったんだぞ」
ミレノアールも森で襲われたことを思い出したかのように怒りを交えて聞いた。
「じ、じいさん!? 貴様、ポポス様に失礼な態度は許さんぞ!」
「落ち着きなさい、パウル。儂は構わん。それにミレノアール殿に迷惑をかけたのは本当であろう」
「それはそうですが……しかし、この者が世界を滅ぼすというのが本当であればそれは一大事です!」
「あー……それじゃがのー……あれは間違いじゃ。このミレノアール殿は世界を滅ぼしたりせんよ」
「え!?」
ポポスの突然の言葉にパウルとマシェリが絶句した。
それだけエルフにとってポポスの予言というものは絶対だったのだろう。
「ほら見ろ。だから言ったじゃねーか……」
そう呟いたミレノアールは、驚く様子もほっとした態度も見せず、ただ囲炉裏の火を見つめている。しかし、その表情はどこか少し悲しげだった。
「少しの間ミレノアール殿と二人だけで話しをさせてもらえんか」
ミレノアールの表情から何かを察したポポスがパウルたちに言った。
「え、二人だけでですか? まあ……この者が安全な人間であるとわかった以上、無理に止めることは出来ませんが……しかしポポス様、この者は本当に何も関係ないのですか? 私はポポス様の予言が外れるなど信じられないのです」
「
「しかしそれでは…」
「パウル様、ポポス様の言う通り二人にして差し上げましょう。さあルーシーちゃんも行きましょう。何か美味しい物でもごちそうしてあげるわ」
「わーい! 実はお腹減ってたの!」
マシェリは二人を連れて部屋の外へと出て行った。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。すまんかったのぅ。お主には里の者の勘違いで迷惑をかけてしまったようじゃな」
「
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。そうじゃな。先ほどはああ言うしかなかったんでのぅ」
「そうか。……二人にしてくれたのも気を遣ってくれたんだな、
「気づいておったんか?」
「まあな。こんな落ち目の魔法使いが世界を滅ぼせるわけねぇもんな……俺じゃないんだろ? 予言に出てくるのは」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。では誰だと?」
「あんたの予言『世界を滅ぼす者』とは俺じゃない……ルーシー……なのか?」
ポポスは舌をペロッと出すと毛繕いを始めた。
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