第11話 星空と月明かりの下で

「あ! そうだ、私のリュック!」


 ルーシーは、ここまで背負ってきた自分の荷物を思い出し、辺りを探し始めた。


「いや、こんな中で見つかるわけないだろう」


 辺り一面、崩れた城の瓦礫で埋め尽くされたこの状況を見てミレノアールは冷静に言い放った。


「ダメだよ! 大事な物が入ってるの。あと3日分の食料も」


 ルーシーはそう言うと、また荷物の探索を始めた。


「食料か……。久しぶりに何か食べたいな。なあファレル、何か出してくれないか?」


「オレ様にそんな力はない。悪魔は人間の食べ物には興味ないからな。それよりお前もルーシーの探し物を手伝ってやれよ。魔法が使えるようになったんだ、簡単だろう」


「そうしてやりたいのはやまやまなんだけどな。どうも魔力が戻らん。100年も使わないでいると魔法の感覚も鈍るらしい」


 ミレノアールは自分の両手を見ながら小さくため息をついた。


「偉大な魔法使いも形無しだな、ミレ。そんな状態で王都へ行って大丈夫なのか? またあいつらと戦っても勝てる見込みないだろう」


「……魔力は、そのうち戻ってくるさ」


 ミレノアールとファレルがそんな会話をしてると、ルーシーがトコトコと小走りに戻ってきた。


「リュックあったよ!」


 ルーシーは自慢げに振り返り、背中にしょったリュックを見せた。


「見つかったのか? よくこんな中から見つけたな」


「えへへへっ」


「ルーシーよ、お主さっき『大事な物』が入っていると言ったな。もしかしたら、それを頼りに探し出せたんじゃないのか?」


 ファレルがルーシーに尋ねた。


「え? どういうこと?」


「大事にしている『物』には魂が宿ると言われているからな。それを本人だけが感じることが出来る場合がある。無論、それが出来るのは覚醒した者だけだろうが、ルーシーならもしかしてと思ってな」


「確かに何となくありそうな場所を探したら見つかったけど。じゃあやっぱり私は覚醒してたんだね!」


 ファレルの言葉に、ルーシーはもう自分が覚醒者であると信じて止まない。


「だけど未だにルーシーから魔力を感じないってのは不思議だな。で、大事な物って何だったんだ?」


 ミレノアールは興味深くルーシーの荷物を覗き込んだ。


「これだよ」


 ルーシーは大きなリュックをゴソゴソと漁ると、中から30cmほどのカボチャのぬいぐるみを取り出して見せた。


「なんだそりゃ、ボロボロだな」


「うん。これはカボチャのジャック。私は生まれてすぐ孤児院に来たらしいんだけど、その時からずっといっしょのぬいぐるみなの。もちろんその頃の記憶は全然ないんだけどね」


「そっか。見つかって良かったな」


 ミレノアールはそう言ってルーシーの頭をポンポンとした。


「あと食べ物も! 私お腹空いちゃった。師匠とファレル様も食べる?」


「おお! 俺もちょうど腹減ってたんだ! ファレルは食べないけど俺は頂こう」


 ルーシーはリュックから銀色の包を取り出すとミレノアールに手渡した。


「はい、おにぎりだよ」


「東の大陸の食べ物だな。昔、東の魔女に貰って食べたことがあるぞ」


「あとパンもあるよ」


ミレノアールとルーシーは月明かりの下、二人でおにぎりとパンを食べた。

100年ぶりに食べたおにぎりとパンは質素なものだったけど、今のミレノアールにとっては十分過ぎるほど美味くて、思わず涙がこぼれそうになるのを我慢した。


「よし! じゃあ出発するか! 飯食ったら少しだが魔力も戻ってきたし」


 先に食べ終わったミレノアールが勢いよく立ち上がった。

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