第10話 見習いの魔女

「待て! 待て! いきなり何言ってんだよ。お前、王都に行きたいのか?」


「そう! エバーライト魔法学校ってとこに行きたいの!」


「魔法学校? なんだ、やっぱりお前、『魔力をもつ血統ウィザーズ・ブラッド』だったのか?」


「え? 何? うぃざー……」


「ウィザーズ・ブラッドな。魔力を持った人間ってことだよ」


「……私、魔女じゃないよ。これからなる予定なの!」


 エッヘン! と言わんばかりの自信に満ちた顔でルーシーは言った。


「いやいや、あの爆発に巻き込まれて無傷ってどう考えても…… いや、確かに魔力をいっさい感じないな。どうなってんだ?」


「そんなこと知らないよ。それよりミレノアールさん、さっきから右肩ずっと燃えてるけど大丈夫なの?」


「な!? お前、ファレルが見えるのか?」


「オレ様が見えるってことは間違いなく覚醒者だろう」


 それまでルーシーの前では黙っていたファレルが口を開いた。


「わっ! 火がしゃべった。それに目もある。可愛い!」


「か、かわいい? オレ様は悪魔だぞ!」


「ワハハハハッ! 世界に恐れられた炎の悪魔が「可愛い」って、ルーシーお前……面白いな!」


「じゃあやっぱり私は覚醒してるのね! 魔女になれるんだ! やったー!」


 ルーシーは、その小さな体で目一杯の嬉しさを表現した。


「ファレル……お前、この子の魂どう感じる?」


 ミレノアールは、ルーシーの喜ぶ姿をよそにファレル尋ねた。


「うーん、とにかく不思議な感じだ。ミレの言う通り、魔力はいっさい感じない。だが、ただの少女にも思えん。オレ様が見えるってことも含めてな」


 ファレルは珍しく、少し困ったような表情をした。


「なあ、ルーシー。お前、魔法使いや魔女を見るのは初めてか?」


「ううん。あの街の孤児院にリンドル先生がいるよ。私、その孤児院から来たの」


 そう言うとルーシーは、自分がやって来た街の方を指差した。


「リンドル……どこかで聞いた気もするが、昔のこと過ぎて思い出せん。うーん……」


「ねえ、ねえ、ミレノアールさん。王都に帰るんでしょ? だったら私も連れてってよ」


「ダメだ! ルーシー、お前はその孤児院に帰れ」


「え~!!!」


「いいじゃねぇか、ミレ。連れてってやれよ。どうせ今から王都に行くんだろ?」


 思わぬファレルの助け船に、それまで不貞腐れていたルーシーが飛び上がった。


「ありがとう! 炎の悪魔さん! 大好き!」


「///……ファレル様って呼べよな」


 少し照れた様子でファレルは言った。


「しょうがねぇなー。爆発に巻き込んじまった借りもあるし、じゃあ王都まではいっしょに行ってやるよ。そのあとの魔法学校へは自分で行けよ」


「やったー! うん、ありがとう!」


 ルーシーはついに魔法学校までの道のりが開けたことに大喜びした。


「もしかしてミレノアールさんも、エバーライト魔法学校に行って魔法使いになったの?」


「ん? いや、俺は魔法学校には行っていない。一人前の魔法使いや魔女になるために魔法学校に行く奴も多いが、もう一つの手段として師匠に弟子入りする方法がある。俺はそっちのほうだ」


「師匠!? じゃあ私、ミレノアールさんの弟子になる!」


「待て、待てぇ! お前は今から魔法学校へ行くんだろ。ルーシー、お前の考え方は行き当たりばったり過ぎる。さては孤児院でも迷惑かけてたろ?」


 思い当たる節もない訳ではないが、ルーシーは敢えて気づかないフリをした。


「いいじゃん。ミレノアールさん、凄い魔法使いなんでしょ? さっき自分で言ってたよね?」


「ルーシー、師匠が欲しいなら、お前こそさっき言ってたリンドル先生に頼んだらいいじゃないか」


「ううん、リンドル先生はダメ。魔法が嫌いなの。普段も全然、魔法を使ってくれないもの」


 ルーシーは首を横に振ると、少しうつ向いて悲しそうな表情をした。


「いいじゃないか、ミレ。師匠になってやれよ」


「なんでお前はルーシーにとことん甘いんだよ!」


 ミレノアールは呆れた顔でファレルを見た。


「いいか、ルーシー。師匠と弟子ってのはな、そんなに簡単に出来るもんじゃないんだ。オママゴトとは違うんだぞ!」


「え~! じゃあ王都に着くまででいいからさぁ。いいじゃん、師匠ぉー!」


 ルーシーは、ミレノアールの上着の端を引っ張りながらブンブン左右に振った。


「んもー! わかったよー! じゃあ王都までの仮な。仮だぞ! 正式なやつじゃないからあくまで『見習い』だぞ!」


 とても師匠に対する敬意ある態度とは思えないが、ルーシーの性格を「しつこい奴」と判断したミレノアールはしぶしぶ了解した。


「ありがとう、師匠! あとファレル様もありがとう! チュッ!」


「小悪魔かっ!? なに本物の悪魔にキスなんてしてんだよ。勝手に契約されちまうぞ! あとファレルも照れんな!」


 ミレノアールは王都への道のりが、めんどくさいものになると確信し、やれやれと肩を落とした。

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