2ページ

「おにいちゃん、そうたっていうんだね」

「あぁ」

「すかいさんじゃないの?」

「え?」

「ママがすかいさんのおみせだっていってたから」

「あぁ、まぁそれでもあるんだけど」

 はい、と皿に盛ってやった菓子を出す。嬉しそうに美味しそうに食べる姿を見て、こっちも嬉しくなってくる。子供はこうでなくっちゃ、と思ってしまうのはやっぱり歳を取ったからだろうか。

「コタロウはこの辺に住んでるのか?」

「うん! しょうてんがいのむこうだよ!」

 と、もぐもぐしながら店の壁を指す。その方向は商店街と道路一本挟んで住宅街になっている所だ。あの辺は新興住宅地で若い年代の家族が多い。

「そうか、ちゃんとママにここに来ること言って来たか?」

「うん! ママがちゃんとごあいさつしてきなさいって」

 と言ってびっくりしたような顔になった。それからスツールから飛び降りて、深く頭を下げる。

「このまえはウェルダーのけんをいっしょにみつけてくれてありがとう。あと、ウェルダーとけんをくっつけてくれてありがとう。あとあと、けがのてあてもしてくれてありがとう」

 さっきも「ありがとう」と言ってくれたのに、コタロウはもう一度丁寧にお礼を言ってくれた。

「どういたしまして。お兄ちゃんもお礼の手紙をもらってうれしかったよ」

「えへへ」

 こんなに小さいのに、えらいなぁと感心する。俺はこんなにもしっかりした子供だっただろうか? いや、違うな。もっと本能に従って生きていた気がする。

 よじ登るようにしてスツールに座り直す。

「コタロウ、何歳?」

「七さいだよ。おにいちゃんは?」

「三十」

 おい、どうしてそこで笑う。何も面白くないだろ。

「おにいちゃん、ありがとう」

「ん?」

「ぼくにやさしくしてくれてありがとう。あとジュースとおかしもくれてありがとう。ぼく、すごくうれしい。だからありがとう」

 そう屈託なく笑う顔に、胸の中に温かいものが広がった。あぁ、嬉しいなぁ。

「お兄ちゃんもありがとうな」

 不思議そうに首を傾げてから、もう一度にっこりと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る