キーホルダー、シュークリーム、それから。
遊月奈喩多
Program1.噴水のある公園で
「よっしゃ、次どこ行く?」
「そーね、じゃ、ここ行かん? ちょうどお昼だし、すぐ近くまで来てるし」
「あっ、いいね! 行こ行こ!?」
修学旅行2日目の班行動。
初日は学年全体での行動であまり自由に身動きがとれないから、みんながみんな、修学旅行の始まりはここからだ……という風に意気込む日(私のいる2班調べ)。
私もそれは同じで、事前に下調べしておいたイベント――近辺にある噴水で有名な(夜にライトアップされたりしたところがよくテレビで取り上げられる)公園で音楽に合わせて噴水が出るという定期イベントがあるらしい――に向けて位置情報アプリを使って行き方とかを見直している最中だ。
といっても、班全員の総意というよりは、そのうちの1人である
噴水のイベントには『水と音の融合』というアオリ文までついていて、まぁ友紀の好みに突き刺さる概要であることは間違いなさそうだった。
今はその公園の目と鼻の先あたりまで来ている。
それを聞いた友紀は早くも行く気マンマンだ。
「それじゃさ、みんなで行こ? うち1人じゃ寂しいし」
どこかのファッション雑誌で見かけるような可愛らしく見える顔でそう頼まれる。わかってるくせに、あんたを1人で行かせようものなら、1人だけをハブった、とか言われてしまうのくらい。
そういうのをわかっていて言えるのが、友紀の計算高いところであり、武器だ。
ついでに、コミュ力も高いから多勢を味方につけられるという特典付き。
それを持ってるだけじゃなくて使えるのは凄いことだなぁ……なんてちょっと引いた感想を持ちながら、私は盛り上がっている友紀を少し遠巻きに見ている。
とりあえず、予定確認しとこ。
あ、もうそろそろだ。
「友紀、もうちょいで時間。たぶんこっち行けば着くから」
「あ、ほんと~? ありがとね
言いながら近付いてきた友紀の格好は、改めて見るとかなり気合の入ったもので。一体誰に見せるの?とか、そんなことを訊きそうになってしまったりもしたけれど。
とりあえずそんな疑問とかは置いといて、私たちは公園に向かった。
「わぁ、すごい人……」
案の定と言うべきなのか、それとも平日の昼間だということを加味して驚くべきなのか、噴水の周り数メートルはかなりの人だかりになっていて、私たちはその後ろですっかり見えにくい位置になってしまっていた。
「どうする? 後でにする?」
「でも、この後って2時間くらい後だけど。ちょっとそこまでは……」
「えぇ、じゃあここやめちゃうの? それはヤなんだけど!」
その人出を見てすっかり気持ちの挫けた私と
……あれ?
「あのさ、
「えっ!」
「ちょ、もう始まっちゃうよ!?」
ついさっきまで一緒だったはずのもう1人の班員、由梨がいないことに気付いて私たちの間に焦りが走ったそのとき……
「あっ、ねーねー! こっちの
その由梨がすごく呑気な声で手招きしながら現れて。
「ゆ、」
「ゆーりー! どこ行ってたの!?」
「空いてるって、どこ!? どこ空いてる!?」
私の声は御影さんと友紀の声に遮られたけれど。
「こっちこっち! たぶんね、よく見えると思うよ?」
まぁ、楽しそうに私たちをその“ベストポジション”へ連れて行ってくれている様子を見る限り、特に何があったわけでもなさそうだし、とりあえず無事に合流できてよかったのかな……?
「あー、すごかった! 近くにいるよりよっぽどよく見られたんじゃない?」
「だよねだよね! うちら得した!」
「ほんとにいい場所見つけたね、由梨」
イベント終了直後、私たちは思わず大声で由梨に言っていた。
由梨が見つけてきた場所は、結果から言えば大当たりだった。
友紀はもちろん、普段どちらかというと静かな御影さんも思わずテンションが上がっているようだ。
少しだけ高いところから噴水を見下ろすことになった私たちが見たのは、床面のタイルに描かれた幾何学模様も相まった、まさに幻想的な『水と音の融合』(私たちが見たのは更に図柄も合わさったものだったけれど)というべきものだった。
周りにはカメラを持った人がちらほらいるだけで空いていたし、かなり見やすかった。
何度見直してみても、そんなの公式ページとかにも載ってないし、完全な穴場だったらしい。
「ていうか由梨、どうやってあんなとこ見つけたの?」
そんなに見つけやすい場所でもなかったのに、と思いながら訊いてみると「何かね、カメラ持った人がこっち来てたから気になって行ってみたんだー」と返ってきた。
「え、ひとりで行ったの!?」
昨日も迷子になったばかりなのに……。
そんな私の声を聞きつけて他の2人も気付いたみたいで、「また迷子になったらどうすんのほんとにー」と呆れたような言葉をかけられる。
「えぇー、でも今度はちゃんと戻って来れたよ? みんなのいる場所とかも確認してから見に行ったし」
「それは当たり前でしょ? こっちのこと見てたって、何も言わずに行ったら危ないし」
「わかったよ、気をつけるよー」
小言はいらない、とばかりにいやいやと首を振りながら(自覚はなさそうだから、癖なのかな?)、一応はそう答えてくれている由梨。でも顔はちょっと不服そう。
……うん、かなり心配が残る反応。
今年のクラス替えで出会った私の親友は、修学旅行中もいつものように素直で明るくて、やっぱりどこか眩しくて。
すぐに友紀たちに呼ばれてそちらへ合流していった彼女に、私は言葉を返しそびれてしまった。慌てて後を追う私を振り返った笑顔に、また心が和むのを感じながら。
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