成層圏を越えて

「ねえ空手……一体いつ着くの、これ」

「んー、あと二時間くらいじゃないっすかね」

「……もっと速くならない?」

「無理っすね」

「そう……」


 雪美さんは諦めたように首を振ると、空を見上げる作業に戻った。

 フーコは先程からごろりと横になった状態で――空の上で横になるというのも変な感じだが――半目でぼんやりとしている。

 私はその隣で三角座りをしていた。完全に手持ち無沙汰だった。

 私たちは三人とも、エレベーターに乗っているかのように、空の上をゆっくりと上昇していた。



 あの後私たちはすぐに緊急会議を開いた。幻想の世界に魔法使いたちを集めて、これまでのことを全て説明した。

 事情を知っているすみれちゃんたちは私たちが無事だったことを喜んでくれたが、他の面々は頭が痛そうな表情をしていた。

 雪美さんがこれまでずっと皆を騙していたこと。しかし彼女は災厄の魔法使いの本体ではなく、その分身わけみであること。そしてこれから私たち三人で、全ての決着をつけるために本体の元へ行くこと……。

 これまでの常識をくつがえすような、やたらと混み合った情報を一気に聞かされた魔法使いたちが、一斉に辟易へきえきしたような顔になったのも無理はないだろう。

 ともあれ私たちは(半ば強引に)彼らを説得し、かつて飛翔の魔法使いがおこなったという実験の時と同じように、投擲の魔法によって空高く打ち上げられたのだった。


 私たちが三人だけで行くことに決めたのには理由がある。

 道中の害獣との戦闘を避け、災厄の魔法使いの砦である巨大な害獣の体内に侵入し、そして災厄の魔法使いを止めるという、最も重要な役割を雪美さんは全てになっている。

 私は、固有空間に閉じ込めている骨の怪物を解き放てば、他のどの魔法使いたちよりも火力を出せる。つまり、最悪の事態に陥った場合の後始末を担当する。加えて、私は東京国のどの地域の管理も任されていない。つまり私がいなくなっても損失は最小限で済むということだ。

 そしてフーコは、仮に雪美さんが道中で裏切ったり、あるいは災厄の魔法使いに操られてしまったりした場合に私を守るという役割を自ら申し出た。

 彼女の魔法なら、もしも私の骨の怪物が暴走してしまったとしても止めてくれるだろう……という密かな計算もあり、私は彼女の同行を受け入れたのだった。


 一気に数キロ上空まで打ち上げられた後、三人がそれぞれ魔法を用いて空を飛ぶのは非効率だということで、現在のようにフーコの固有魔法で三人をまとめて運ぶ形に落ち着いた。

 ちなみにフーコが横になっているのは、なるべく魔力を温存するためだとか。

 消耗した私たちの魔力を回復するためには、本来なら数日の休息が必要だった。

 しかし、私たちを待っていたすみれちゃんは「こんなこともあろうかと」と言って、自分の魔力を封じたシールを大量に用意してくれていた。

 魔力をほとんど全部使い切っていた私はもちろん、フーコもかなり消耗していたので、まさに渡りに船だった。

 空の上の災厄の魔法使いがいつ地上に降りてくるか分からない現状では、なるべく早く行動を起こすに越したことはない。多少の不安はあったが、作戦のコアな部分を担当する雪美さんはほとんど休養を必要としない状態だったため、私たちはそのまま出発することに決めたのだった。



「……自分のせいっすかね」


 ゆっくりと上昇し続ける景色の中で、フーコが小さく呟いた。


「フーコ?」

「大森が駄目になったのは……やっぱり自分のせいだったんすかね」

「……どうしたの、急に」

「自分が幻想に付きまとったりしなければ……幻想が追い詰められることもなかったんじゃないかなって……」


 私は、咄嗟とっさに何を言えばいいか分からなくなってしまった。

 雪美さんが語ったことを思い返してみると、フーコが雪美さんに接触するようになったことをきっかけに彼女は変化していき、そして己のアイデンティティをおびやかされる恐怖にかられて大森を滅ぼすに至ったのだ。その文脈から考えてみれば、確かにフーコが責任を感じてしまうのも頷ける。しかし……


「……あなたねえ、張本人の目の前でそういうこと言う?」


 雪美さんは不機嫌そうに言いながら、フーコに冷たい眼差しを向けた。

 フーコの固有魔法の見えざる手に乗って上昇している私たちは、必然的に狭い空間に密集している。フーコの小さな呟きも、雪美さんにはバッチリ聞こえてしまっていたのだった。


「私が言うのも本当にどうかと思うけど……今さら過ぎたことをあれこれ考えて、それで何かが変わるの? 今あなたが考えるべきはそんなことじゃないでしょう?」

「だって幻想が、あんな話をするから……」

「私の話をあなたがどんな風に受け取ったかは知らないけど、大森に関してはどう考えたって最初から最後まで全部、私のせいでしょ。そこに勝手に割り込んできて、勝手に感傷に浸らないでくれる?」

「別にそんなつもりはないっすよ。ただ……自分が幻想に近付いたのは、あんたが災厄の魔法使いじゃないかとうたがってたからで……それなのにあんたは自分のことを、その……好きになってくれてたなんて知らなくて……後ろめたい気分なんすよ」


 フーコも、雪美さんも、まるで深夜にこっそり友達の家に集まって話をしているかのような、不思議なテンションになってしまっているようだった。

 空の上の空気はある一点の高さを越えた瞬間にガラリと冷たく冴え渡り、眼下には現実感を失ったミニチュアのような世界が見えている。そんな、今まで見たことも感じたこともないような環境に置かれているからこそ、彼女たちも普段とは違う言葉や感情を、自然に吐き出してしまうのだろうと思った。



「知ってたよ」


 雪美さんはフーコから目を逸らし、遠く遮るもののない陽の光を見ながら言った。


「まさかそこまで核心に迫っていたとは思わなかったけど……でも、きっと何か打算があって私に近付いているんだろうなとは思ってた。あなたが私のことを監視対象としか見ていなかったとしても、その上で私は、あなたと過ごす時間に価値を見出したの。あんまり私を軽く見ないでよ」

「……違う」

「何が?」

「あんたのこと、監視対象としか見てなかったなんて、そんなことはないっす。最初は確かに……そうだったっすけど、でも、自分も同じなんすよ。幻想と一緒に過ごすうちに本当に楽しくなってきて、ずっとこんな時間が続けばいいのにって、全部自分の勘違いだったらいいのにって、いつもそう思ってた……」

「……」

「だから……自分もあんたのこと……いつの間にか、す、好きになってたんすよ」

「……それ、本当?」

「本当じゃなきゃこんなに変な感じになってないっすよ……」


 私はなるべく二人の邪魔にならないように体を小さくしつつ、頭上を飛び越えて交わされる赤裸々な言葉たちを、顔を押さえながら聞いていた。

 どう考えてもここは空気を読んで席を外すべき場面なのだけれど、空の上ではそういう訳にもいかない。私にできることは全力で存在感を消すことのみ……。


「……ちょっとショウくん、きみはどうしてそんなに楽しそうなのかな?」

「えっ、いや、僕は存在しないものとして無視して頂いて……どうぞ続きを……」

「近くでそんなに楽しそうな顔されたら、気にするなって言う方が無理なんだけど」

「すみません。二人は相思相愛なんだなーと思ったらつい……」

「ああ……そういえばきみは太陽と同じ趣味があるんだったね……」


 雪美さんが若干遠い目をしていると、突然フーコが顔を赤くして跳ね起きた。


「ショウさん! 自分の好きっていうのはそういうんじゃないっすから! あんたも何とか言って下さい、幻想!」

「あら、あなたはそうなの? 私は別に……」

「ちょっ、何言ってるんすか!? ていうかショウさんはそれでいいんすか!?」

「これは二人の問題だと思うので……僕が口出しするのはちょっと……」

「むー……もういいっす!」


 フーコはリスのように頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


「あっ、あれ? フーコ?」

「あーあ。ショウくんは女心が分かってないなあ」

「ええー……? これでも一応、心は乙女なんですけど……」

「乙女?」


 雪美さんは一瞬だけ苦笑を浮かべてから、ふと何かに気付いたような顔になった。


「乙女って……それ、もしかして冗談じゃなくて? 変身した時の姿が魔法少女っぽかったのも、そういうことなの?」

「あ、はい。そういうことです」


 私が答えると、雪美さんは納得がいったように頷いた。


「ひょっとしてショウくん、太陽のこと好きだった?」

「えっ……ええ、まあ……」


 なんだろう、その唐突な質問は。罰ゲームだろうか?

 よくよく考えてみれば、私はこれまで先輩に対する気持ちを誰にも打ち明けたことがなかった。

 りりのには一度だけ話したことがあるけど、あれは色々とボカしていたから……まさか先輩のお姉さんと面と向かってそういう話をする日が来るとは思いもしなかった。正直、かなり恥ずかしい。


「やっぱりそういうことだったんだ。私ね、きみが初めて家に来た時、きみのことを泥棒猫みたいだなって思ったの」

「ど、泥棒猫?」

「自分でもそんな風に感じるのはおかしいって思ってたんだけど、あの時、無意識のうちに女の勘が働いていたんだねえ。やっとすっきりしたよ」

「いや、でも、先輩は僕のことはただの後輩としか見てませんでしたし……」


 私がしどろもどろになっていると、ふと、フーコがそっぽを向いたまま、視線だけをこちらに向けていることに気が付いた。


「……ショウさんは、今でもその先輩のことが好きなんすか?」


 どきりと胸が跳ね上がった。

 フーコの瞳は、今まで見たことがないような色をしていた。


「それは……難しい質問だね」


 不意に投げかけられたその問いは、私が今まで隅に追いやってきたことを見つめ直させるものだった。

 先輩が亡くなってから、私の中には怒りと絶望だけが膨らんでいった。

 しかしあの夜、それら全ての感情を雪美さんが引き受けてくれて……その結果、私の中には一体、何が残ったのだろう?

 居ても立っても居られない衝動だけを胸に抱いたまま、私はここまでやってきてしまった。

 全てが過ぎ去って、過去をかえりみる暇もないような日々に追われて、そうして過ごす中で私の先輩に対する気持ちは、どんな風に変化したのだろう。あるいはあの頃から、今も、これからも、ずっと変わらないのだろうか。

 先輩と過ごしたかけがえのない時間を思い出す度に、喉が締め付けられて息苦しいような気持ちになる。どんな魔法を使おうとも、あの頃にはもう二度と戻れない。

 この感情を何と呼ぶべきなのだろう。名前があるのかどうかさえ分からない。

 それでもどうにかして、この気持ちを言葉にしなければ。


「もちろん、僕が先輩を好ましく思う気持ちは変わっていない。でもそれはもう、恋愛に属するものじゃなくなっているんだと思う。出来事が積み重なって、時間が流れて、全部が地層みたいになって……確かなものとして固まっているんだ。それは、これから先もずっと形を変えることはない。でも、誰かを好きになる気持ちは、良くも悪くもどんどん変化していくものだと思うから……だから、今の僕の先輩に対する気持ちは、恋ではないと思う」


 フーコは、じっと私の顔を見つめていた。

 そして不意にふっとため息を吐いて、なんだか微妙な表情を浮かべた。


「ショウさん……自分は別に、そこまで深い感じの答えを求めていた訳じゃなかったんすけど……」

「えっ」

「いや、単純に今も好きなのかどうか知りたかっただけで……」

「それはだから、その」

「あーいえ、やっぱいいっす。すみません、忘れて下さい」

「ええー……? いいのぉ……?」


 なんだか釈然としないけれど、何故かフーコの機嫌は直ったようだった。

 もしかして私は、肉体の方に心が引っ張られているのだろうか? 女の子の気持ちというものが、よく分からなくなってきた……。



 それから私たちはほとんど言葉をかわさないまま、ゆっくりと上昇し続けた。

 しばしば空を飛ぶ害獣が近付いてきては、旋回してどこかへ去っていく。雪美さんがいなければ、ここに来る間だけで、数百もの害獣と戦う必要があっただろう。

 高度が十キロメートルを超えたあたりで、空気がひどく薄くなっていることに気が付いた。気温はマイナス数十度だろうか。気圧も恐ろしく低く、普通の人間ならとても生きていられないような環境だ。

 こんな場所で平然としていられる私たちは、本当にもう人間ではないのだなと、妙な寂寥せきりょう感を覚えたりした。

 更に上り続けると、次第に空の青色が消えていった。地平線がはっきりと弧を描き、眼下には青と白に彩られた世界が見える。地球は本当に丸かったのだ。

 三十キロメートルを過ぎるとそこはもう、私の目には宇宙にしか見えなかった。

 物理的な音はほとんど消え、真っ黒な空に浮かぶ太陽が怖いくらいに輝いている。青く丸い地球を見下ろすという経験をこの人生ですることになるなんて、夢にも思わなかった。


「雪美さん……これもう通り過ぎちゃったりしてませんか? 完全に宇宙じゃないですか、ここ」

「地球と宇宙の境目なんて、結構曖昧あいまいなものらしいよ……」


 言葉を伝える空気はほとんどなくなっているため、魔力を介して会話をする。

 雪美さんはしばらくの間ぼんやりした様子で、じっと遠くを見つめていた。


「ああ……魔法なんてものが使えるようになって……いくつも世界を滅ぼして……嘘みたいなことばかり経験してきたのに。こうしてただ少し高い場所からの景色を見たっていうだけで、こんなにも感動するなんて……知らなかったなあ」


 雪美さんの瞳の中に、太陽の光がキラキラと輝いていた。

 その横顔はまるで子供のように無邪気で――それでいて、年老いた人間がふと見せるような寂しさをも感じさせるものだった。


「……まだようやく半分だよ、ショウくん。上を見てごらん」


 それまで眼下の地球や遠くの太陽ばかりを見ていた私は、雪美さんに言われるまま上を見上げた。

 そこには確かに、『何か』があった。

 暗い宇宙に溶け込むようにして、ポツリと黒い点が見える。それは時間が経つにつれてどんどんと大きくなっていった。


 地上から約五十キロメートル。

 しばらく害獣の姿も見ていない。とても静かだ。

 吸い込まれてしまいそうな錯覚が何度も起きた。それは地球側にだったり、時には宇宙側にだったりした。

 自分が今、上っているのか、落ちているのか、分からなくなった。

 あらゆる思考が全てちっぽけなもののように思えて、ただひたすら目の前の壮大な景色に圧倒されていた。


「ショウさん」


 フーコに手を握られて、ハッと我に返る。

 ほんの一瞬、自分がどうしてこんな場所にいるのか分からなくなっていた。

 頭上を見上げる。

 巨大な影が、ずっと前から変わらずそこにあった。

 確実に近付いているはずなのに、全く近付いている気がしない。ひょっとして私たちはもう何時間もずっと同じ場所に浮かび続けているのではないかと思ってしまう。


「自分の魔力の流れ、分かりますか」


 そんな私の思考を読み取ったかのように、フーコがそっと囁いた。

 言われて初めて、私はフーコの魔力が絶えず動き続けているのを感じ取った。

 見えざる手は今も確かに私たちを乗せて、目的地に向けて上昇している。

 すみれちゃんの魔力を封じ込めたシールは既にいくつか消費されており、フーコの体の中で一つに溶け合っていた。

 二人分の魔力を感じて、私は目が覚めたかのように、自分が成すべきことを再確認した。


「ありがとう」


 私が言うと、フーコは優しく微笑んだ。

 まるで彼女のほうが年上みたいだと思った。


「見て下さい、ショウさん。この世界は、こんなに美しかったんすね……」


 私は無言で頷いた。

 非日常の景色に騒いでいた心はすっかり静まり返り、今はただ、何故か無性に彼女の手を握り返したいという気持ちでいっぱいだった。


「すごくきれいだけど、こんな高い所に一人でいるのは多分、耐えられないな……」

「そうっすねえ」



 全く変わらないように見えた景色は、しかし確実に変化していく。

 頭上の巨大な害獣に近付くにつれて、その姿が鮮明になってきた。

 のっぺりとした黒色の、まさに空に浮かぶ大地のようなそれは、鍾乳洞のように無数のつららを垂らし、それぞれの先端から更に枝分かれするようにして、腕が方々へと伸びているようだった。

 地上七十キロの高さまで来ると、それらの触手がこちらに伸びてきては、雪美さんのひとにらみで停止する。それが数十回、数百回と繰り返された。


「これ以上進むのは物理的に難しいかもね」


 まるで触手の密林に迷い込んだかのような有様になった所で、雪美さんが疲れたように呟いた。


「もう面倒だから、この触手の中を通りましょう」


 私たちが何か言うより先に、一つの巨大な触手が至近距離まで近付いてきて、がばりとその口を開けた。

 雪美さんはさっさとその中に飛び移ってしまい、私たちは慌ててその後を追った。


 巨大なトンネルのような触手の内部を、雪美さんを先頭にして進んでいく。

 触手と言っても、粘液がしたたっているとか、ひどい臭いがするとか、そういったことはなかった。魔法で作られた害獣は、どこかしら無機質な感じがするようだ。

 塞がれている道を雪美さんが開き、行き止まりになっている壁は無理やり破壊して進んだ。

 隠密行動とは程遠いが、それに対する懸念けねんはなかった。そもそも真正面から近付いた時点でこちらの存在はバレているだろうし、相手が私たちを排除するつもりなら、とっくにそうしているはずだからだ。

 あるいはそうしたくても雪美さんがいるからできないのか……どちらにせよ、私たちにできることは、このまま進むことだけだった。


 だんだんと道が広くなっていき、やがて大きな広間に出た。

 行き止まりの分厚い壁の向こうは、いよいよ害獣の本体につながっているらしい。

 壁に穴を開けながら進み、とうとう向こう側に突き抜けると、まばゆい光が私たちを出迎えた。

 そこは草原だった。

 高い空の上には日の光が輝き、背の低い草がまばらに生えた野原だけが、遠くどこまでも広がっている。

 風が吹いた。暖かい風だった。


「なにこれ……どういうこと……?」


 私たちは確かに、地上八十キロメートルの高さまで上ってきたはずだった。

 しかしここには空気があり、温度も、気圧も、何もかもが地上とそっくりだった。

 ただ一つ確かなのは、振り返れば、私たちが破って出てきた害獣の体壁がゆっくりと修復されつつあるという事実。私たちは魔法で転移させられた訳ではないということだけは間違いなかった。


「とにかく進みましょう」


 雪美さんはどこか複雑そうな表情を浮かべながら、先頭に立って歩き始めた。


「フーコ、どう思う?」


 私は雪美さんの後を追いながら、隣を歩くフーコに聞いてみた。


「ここが害獣の体内だってことは間違いないっすね。あの太陽みたいなものからは魔力を感じるっす。この青空も、どうにかして魔法で再現したものじゃないっすかね」


 私もフーコの意見に賛成だった。

 では何故、災厄の魔法使いはこんな空間を作り出したのだろうか?


「ああ……やっぱり、考えることは同じか」


 しばらく進んだ所で、不意に雪美さんが歩みを止めて呟いた。

 その視線の先には、小さな家がポツンと一軒だけ建っていた。

 私は……その家に見覚えがあった。

 重厚な黒い瓦屋根。灰色の塀と、その外に広がる田んぼや畑。

 まるでそこだけあの日の時間を切り取ってきたかのように、先輩の家の風景が再現されていた。

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