3 高校5
次の日から、りりのは当たり前のように私たちと一緒に過ごすようになった。
短い休み時間にあれこれ理由をつけてこちらのクラスに来たり、昼休みに私と元一が中庭で昼食を食べている所に突撃して来て、結局照れてうまく会話に入れずにもじもじしたりしていた。この子も他に友達がいないのだろうかと少し心配になった。
放課後はほとんど三人で帰った。
ほとんど、というのは、時々二人だったり一人だったりすることもあるからだ。
りりのは週に一度くらい、用事があるからと言ってさっさと帰ってしまう。「わざわざクラスまで言いに来なくてもいいのに」と意地悪を言うと、露骨に悲しそうな顔をする。ちょっと言い過ぎたかなと思って謝ると、「引っかかったー」などと言って笑う。なんだかすごく友達っぽい感じがして、まんざらでもなかった。
元一も時々、昼頃に早退してしまうことがあった。なんでも家の用事で出かけなければならないらしい。私の家ではそういうことはないので、大変だなあと同情してしまう。
そしてその日は元一が早退した日だった。
私とりりのは二人して残念そうな顔を並べて放課後の帰り道を歩いていた。
「今日どうする?」
「片角くんがいないんじゃなあ。普通に帰ろっかな」
「いてもロクに話せないくせに」
「一緒にいるだけでいいの。存在を感じていたいの」
「それはちょっと……分からないでもない」
「でしょー」
そんな軽口の
消防車のサイレンに似た音が、街のスピーカーから流れている。
「なに、この音」
「嘘でしょ……」
りりのは今まで見たことのないような青ざめた表情をしていた。
スピーカーからは害獣が街に侵入したというアナウンスが流れていたが、私はその言葉の意味がよく分からずにぼんやりとしていた。
「そんなに近くはない……けど遠くもない」
そう呟いたりりのは、一瞬困ったような迷ったような顔をしてから、私の手を握って走り出した。
「えっ、なに」
「いいからこっち!」
すごい力で引っ張られる。
普段の少し抜けている雰囲気からは想像できないほど真剣な彼女の表情を見て、私はようやくサイレンが告げていることの意味を理解し始めた。
手のひらに感じる熱と汗が、りりのの心境を
頭の中では、少しずつ危機感が増していくのと同時に、「もっと運動しておくんだった」などという間抜けな考えが浮かんでは消える。りりのだって特に部活には入っていないはずなのに、どうしてこんなに走れるんだろう。……そんなどうでもいいことを考えてしまうのは、脳が現実逃避をしようとしているせいなのかもしれない。
少し走ったところで、公園に設置された小さな建物にたどり着いた。
四角形のコンクリートの箱に扉が付いたもの、としか形容できないような見た目だが、その頑丈そうな扉を開けると地下に続く階段が見えた。共用シェルターだ。
「待ってくれ!」
りりのが私を押し込もうとしたところで、下から声があった。
「すまない、ここはもう子供たちでいっぱいなんだ!」
薄暗い地下の空間をよく見ると、下校途中と思しき小学生たちが、階段の途中にまで
私たちはこのシェルターへの避難を諦めて外へ出た。
「あーもう! 遠回りでも学校に戻るんだった!」
自分を叱りつけるように言うと、りりのは再び走り出した。もちろん、私の手をしっかりと握ったままだ。
「大丈夫! いざとなったらアタシが守るから!」
やだ……格好いい……。
不覚にもときめきながら来た道を戻っていると、突然サイレンが鳴り止んだ。
ふいに訪れた
少し間を置いて、害獣が魔法使い様によって駆除されたという旨のアナウンスが流れると、私たちはその場にへたり込んでしまった。
「なんか……びっくりしたね」
どうにか呼吸を整えてから私が声をかけると、りりのは頭を抱えて丸くなっていた。漏れてくるうめき声から察するに、さっき自分で言った台詞を思い返しているのだろう。
「いや、格好良かったよりりの。マジで。頼もしかったし。手とか引っ張られてちょっとドキッとしちゃったもん」
「やめてー!」
「私が守るとかホント一度は言われてみたかった台詞っていうか」
「おいやめろやめろー! わーーーー! 聞こえなーい!」
「でも嬉しかったよ。本当に」
「……」
「ありがとう」
「……別に」
その日を境に、毎日のように害獣の侵入警報が鳴るようになった。しかしそのいずれも
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