第13話 霊感少女、退散祈願?

 早いもので、長谷川が死んでから一週間が経った。

 俺なんかは、今でもひょっこり長谷川に声をかけられるような気がしているが、大伴が言うには、もう長谷川は成仏しているのだそうだ。


 近藤は、自分のせいだと言う気持ちがまだあるようで、話しかけてもあまり元気がない。

 ただ、こういうのは時間が解決してくれるのだと、村上先生が言っていた。


 事件のことについては、俺と大伴、近藤、村上先生しか、詳しいことは知らない。

 結局、事故だったのだから、俺もそれで良いと思う。

 まあ、長谷川のお母さんが葬儀で悲しみにくれていたのが、痛々しくはあったが……。


 今、長谷川の席には、絵が飾られている。

 その絵は、牧田が描いた長谷川の肖像画だ。

 俺は、初めて牧田の絵を見たけど、実に良く特徴を捉えていて、正直、すげーと思ったよ。

 絵の長谷川は微笑んでいて、それを見る度に誰にでも優しかったあいつを思い出す。





「先生っ!」

「なんだ、結城?」

「今日、席替えっすよね?」

「そうだぞ。何だ、席替えをしたくないのか?」

「いや、席替えしてもらいたいんっすけど、一つお願いがあるんっすよ」

「何だ? 希望に添えるか分からんが、とりあえず言ってみろ」

「席替えのくじを、こっちから引かせてもらえないっすか? 俺、前回、くじを引けなかったのに、また引けないってあんまりじゃないっすか?」

「ああ、そう言うことか。良いぞ……。ただ、確率は一緒だぞ。それは分かっているな?」

よしっ!

 確率が一緒なのは分かっているけど、今日の俺は気合いが入っているんだ。

 くじさえ引ければ、何とかなる。

 もう、この36番とはお別れだぜ。


 この一ヶ月、本当に俺にとっては長かったよ。

 大伴みたいな奇妙な奴の隣になって、どれだけ俺が苦労したことか……。

 辛いことも、思い悩んだことも、これで終わりだ。


 なあ、もう良いよな。

 俺、この席で相当苦労したんだからさ。

 祖父ちゃん、修行も足りているだろう?


 今回は、どうしても近藤の隣が良いな。

 まだ元気のないあいつを、俺が励ましてやるんだ。

 ……で、絶対、

「彩奈……」

「宏太君……」

って呼び合う仲になってやるぜ。


 近藤は、相変わらず俺が大伴のことを好きだと思い込んでいるようだけど、それは隣の席にいるから勘違いされているだけのことだ。


 大体、あんな置物みたいなノーリアクションの霊感少女なんて、俺が好きになるわけがない。





「そらっ、結城。お望み通り、一番目に引かせてやるぞ」

「……、……」

俺は、袋に手を突っ込み、紙片を確かめる。

 どれにしようかな……。

 何か、どれを引いても、今日の俺なら両隣が女子の席を引きそうな気がする。


「これだっ!」

気合いの入った声と共に、俺はくじを引いた。

 四つに折りたたまれた紙片を恐る恐る開ける。


「さ、36番……」

俺は、何かの間違いじゃないかと思って、何度も見直したよ。

 だけど、どう見ても、俺が引いたくじには、36番と書いてある。


「ま、マジかよ……」

思わず、声が出ちまった。


 ……って言うか、こんなのありか?

 三回連続ってどういうことだよっ!


 落胆しすぎちまって、俺は机に突っ伏したよ。

 隣を確認する気力もない……。


 んっ?

 確か、前にもこんなことがあったかな?

 デジャブーって言うんだっけ?

 こういうの……。


 これ、どう考えてもおかしいだろ。

 十八分の一を三回連続で引くって、あり得ない。

 もしかして、何か、呪いにでもかかっているのか、俺?


 辺りががやがやと騒々しくなっていく。

 皆、新しい席に移動しているんだろうな。

 俺だけが、この席に縛り付けられて動けない。


「ツンツン……」

俺は、肩を突かれた。

 ま、まさかっ!

 思わず、戦慄が走る。


「ツンツン……」

う、嘘だと言ってくれ。

 こ、この感触……。


 い、いや……。

 誰か他の奴が同じように突いているだけさ。


「ツンツン……」

ううっ……。

 もうダメだ。

 俺、もう一ヶ月だなんて、とても耐えられない。


 あ、あいつだ。

 これは、あいつが突いているんだ。


「ツンツン……」

い、嫌だ。

 誰か、これは夢だと言ってくれっ!


 そうだ、頭を上げなけりゃあ良いんだ。

 俺、ずっとこうやって突っ伏していよう。


「朝っぱらからシャキッとせんかっ! 宏太」

「……、……」

「……と、結城君のお祖父さんが仰ってるわ」

「……、……」

今、確かに、左隣から大伴の声がした。


 うっ……。

 また一ヶ月、俺は霊感少女に悩まされるのか。


 席替えの神様っ!

 俺、そんなに悪いことをしたかよ?


                

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