第3話 コックリさんより霊感少女?
「お、おはよう……」
「……、……」
大伴は、俺の朝の挨拶に、かすかに首を縦に動かしただけだ。
まだ、時刻は7時ちょっと過ぎ……。
教室の中には、俺と大伴だけしかいない。
俺はこの状況を想定していたのだが、それでも何故か激しく動揺している。
大伴と二人きり……。
いたしかたないとは言え、この極限状態はかなり精神的にキツイ。
俺はまだミッションを完了していない。
大伴の口を封じると言う、最重要課題を……。
席替えから四、五日経つと言うのに、一向に大伴に話しかけられないでいた。
俺の失敗は、昼休み作戦が不発だったことに尽きる。
いつもいつも、集まってくる女子達に俺は阻まれたのだ。
当初、俺がへたれだから話しかけられないのかと思ったが、良く考えてみると、あいつらがいるところでは話が切り出せないことに、ようやく昨日気がついたんだ。
それで、今日は朝から大伴を待っていた。
長谷川がチョロッと、
「花って、毎朝、必ず一番早く教室にいるよね」
と、情報を漏らしたのをキャッチしたからだ。
試験一週間前で、部活の朝練はどの部も休み……。
このチャンスを逃す手はないっ!
不発に終わった昼休み作戦を糧に、さらに次の作戦を考えるなんて、俺ってなかなか策士だろう?
ただ、その諜報活動はバレバレで、
「結城君……、何か用?」
「席替えしてから昼休みにいることが多くない?」
「チラチラこちらを見てるけど、一緒にお弁当を食べたいの?」
などと、集中砲火を浴びる始末……。
揚句の果てには、
「もしかして、花ちゃんのことが好きなの?」
なんて、近藤に言われちまったし。
と、当然、激しく否定しておいたぞ。
そんな、あり得ない疑惑をかけられたら、超迷惑だからな。
「なあ、大伴……。死んだ俺の祖父ちゃんと話せるのか?」
「……、……」
俺は、決死の覚悟で言った。
何度も繰り返しシュミレーションしたせいか、比較的、滑らかに言葉が出たと思う。
しかし、大伴の反応は、予想通り薄かった。
また、かすかに首を縦に動かし、うなずいただけ。
だけど、ここからが肝心だ。
頑張れ、俺。
「それって、いわゆる守護霊的な奴なんだろう? 俺にとっての」
「違うわ……」
「じゃあ、何で祖父ちゃんがおまえと話せるんだよ?」
「守護霊って一般的に言われてるけど、私はそう言うのは存在しないと思っているわ」
「えっ……?」
「守護霊がいて、霊界があって、来世があって……。そう言う宗教的な霊を構成する世界の存在に、私は否定的なの」
「だって、おまえ、今、祖父ちゃんと話せるって……」
「今、結城君の後ろに、確かにお祖父さんはおられるわ。でも、それは守護霊がどうのではなく、お祖父さんの意志が残っているだけなの」
「……、……」
「霊ってね、もっと単純なものだと思うの」
「……、……」
「宇宙の中に、まだ人類が見つけていない物質があって、それが宇宙中に充満して繋がっている……」
「……、……」
「その物質が各肉体の中で情報という色を付けられたものが、霊よ。つまり、霊とは、情報の記録媒体となる物質のことね」
「……、……」
「体外に出た霊は、繋がった物質の集合体に戻っていくので、戻ると情報のリセットが始まるの。これがいわゆる成仏……」
「……、……」
「たまに、リセットされないで情報の色を付けたまま留まる霊がいたりするわ。結城君のお祖父さんもそれよ」
「……、……」
「情報をリセットするかどうかは、本人の意志が大きく関係している……。何かやり残したことがあったり、強い願望があったりすると、リセットをしない選択をするのね」
「……、……」
「結城君のお祖父さんの場合は、結城君に強い執着があるのね。だから、いつも見守ってくれている。私はそれを見られるし、意志を音として認識出来るだけよ。だから、守護霊なんてものはいないの」
お、大伴……?
おまえ、大丈夫か?
……って言うか、俺、もしかして、何かヤバイとこに触れちゃったかな。
言ってること、全然、意味が分からないし、ぼそぼそと呟くように言うわりには、やたらと顔には自信が満ちあふれてるし……。
大体、大伴がこんなに話してるのって、聞いたことがないぞ。
何を考えてるのか分からなかったけど、宇宙がどうしたとか、人類がこうしたとか、何を言っちゃってるんだ?
「おはようっ、花ちゃん」
「……、……」
こ、近藤……?
しまったっ!
もう、他の奴が来る時間か。
もうちょっとで大伴の口を封じる話を持ち出せたのに、何か、わけの分からない話で時間を浪費しちまった。
おいっ、大伴!
おまえのせいで、また失敗しちゃったじゃないか。
俺は、守護霊なんて、どうでも良いんだよ。
「ゆ、結城君……? 早いね。もしかして、花ちゃんと話をしたくて早く来たの?」
「い、いや……」
近藤……!
誤解だぞ、それは。
とんでもなく方向感の違う誤解だ。
「でも、今、楽しそうに話をしていなかった? 花ちゃんが話をすることって、なかなかないわよ」
「確かに、話はしていたさ。だけど、それは……」
「結城君……。花ちゃんが好きなのね。最近、昼休みにチラチラ見ていたのもそう言うことでしょう?」
「ち、違うぞっ! それ、全然違う!」
「ううん……、良いの。私、お邪魔だったみたいだわ。ごめんなさいね。私、あっちに行っているから、話を続けて……」
「……、……」
近藤っ!
マジで違うから……。
……って、教室に三人しかいないのに、話の続きなんて出来るわけがないだろう?
近藤は、何故か、涙目になって俺を見つめている。
おい……。
泣かなくても良いだろう?
俺だって泣きたいんだからさ。
大伴花……。
全部、おまえのせいだぞっ!
「近藤さん……。あなたに犬の霊が憑いているわ」
俺と近藤の話なんか、どこ吹く風……。
大伴が突然、妙なことを言い出した。
犬の霊……?
何だそりゃ?
「は、花ちゃん……?」
「……、……」
「どうしたの、突然? 私に犬の霊が憑いているって、どういうこと?」
「近藤さん……。昨日の放課後、誰かとコックリさんをやったでしょう」
「えっ? ど、どうしてそれを知っているの」
「昨日まで、憑いていなかったから……」
近藤は、驚いた顔で大伴を見た。
ただ、大伴は相変わらず無表情のままだが……。
普通、犬の霊が憑いていたら、もっと驚いたりしないのかな?
まあ、大伴が普通だとは、俺にはこれっぽっちも思えないけどな。
「近藤さん……。コックリさんをやってはダメよ」
「そ、それにはわけがあるの。どうしても相談したいことがあって……」
「コックリさんをやると、不特定の霊が寄ってくるの」
「……、……」
「あなたは見ず知らずの人や、飼っているペットに相談事をする? 大事な相談を、どうでも良い人にしたりはしないでしょう?」
「は、花ちゃん……」
ん……、まあ、これは大伴が言うことに一理あるかもしれないな。
だってよう、犬に相談したって、まともな答えが返ってくるわけないからな。
近藤は、尚も何か言いたそうだが、大伴の無言の圧力に負けたのか、下を向いてしまった。
こ、近藤……。
大丈夫か?
「今日の放課後、妙興寺に行きましょう。ご住職とは懇意にしているから、霊を祓ってもらえるわ」
「う、うん……」
「相談事も、ご住職にすると良いわ。私が聞いてあげても良いけど……」
「あ、ううん。相談の方は、もう愛美ちゃんに聞いてもらったから良いの」
「……、……」
「ごめんなさい……。本当は、花ちゃんに相談したかったのだけど、これは、花ちゃんには相談出来ないことだったから……」
大伴は、またわずかに首を縦に動かしうなずいた。
無表情なのは、相変わらずだったが……。
近藤が、大伴と一緒に妙興寺に行ったのかどうか、俺は知らない。
……って言うか、結局、俺のミッションは失敗した。
大伴花……。
あの不気味な思考の持ち主の口を早く封じてしまわねば、俺に安息のときは訪れない。
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