キャット&リリース
タカナシ
だいたいこうなる
20××年。某県に隕石が飛来した。
隕石はその県の中心に大穴を開け、さらには謎の生物まで誕生させたのだった。
それから5年後。
そこはとある人たちによる楽園と化していた。
「こちらリポーターの福地です。私は今、もっともホットと言われる観光名所、『寝湖』にきています」
マイクを持ったリポーターはカメラの前で滑舌良く声を上げ、『寝湖』と呼んだ湖へと近づいていく。
「見てください。これが5年前の隕石でできた湖です。普通の水とは違って乳白色をしています」
福地は手に水を汲むとカメラに向かってその色を見せる。
「さて、これだけでも観光に来たくなると思うのですが、今ここではあるモノが大人気なんです!」
そう言うと、わざとらしく周囲に人がいないか探し、福地は湖畔に座っている男性へと声をかけた。
「すみません。○○テレビですけれども、お話いいですか?」
声を掛けられた男性は困ったような表情を見せる。
「ちょっとアポはとってるんですか? え、とってない。いや、困るんだけどなぁ~」
さして困った風でもない男性に、リポーターは誰もが疑問に思ったことを聞く。
「もしかして、有名な方ですか?」
「あれ? 僕のこと知らないの。ふ~ん。キミ、リポーターでしょ? もう少し勉強した方がいいよ」
男性はそう言いながらも、自分はプロの釣り師で、名前は張本だと教えてくれた。
テレビで放送されるときには、張本の出ている雑誌や経歴など紹介されるだろう。
「それで張本さんはここで何を?」
「釣りだよ、釣り!」
確かにリポーターが聞かずとも、ポケットのいっぱいついたベストに防水性の高そうなズボン、濡れても大丈夫なサンダル。
極めつけは『大漁』と書かれたキャップ。これだけの姿をしていて釣り以外のほうが驚きだ。
「そうなんです。いまここ『寝湖』では釣りが大ブームなんですよ! それでは早速、張本さん釣りをしているところを見せて頂いても?」
張本はコクリと頷き、肯定してみせる。
この示し合わせたような軽やかな流れに、きっと誰もが偶然見つけた男性ではなくテレビサイドが用意したと分かるだろう。
「いや、俺もね、ここでの釣りは初めてなんだよね」
そう呟いていると、早速当たりがきたようで竿がしなる。
「おっ、来た来たっ!」
リールを巻き上げると、糸の先には可愛らしい子ネコが食い付いていた。
小さな顔にくりっとした目がキュートなサバネコだ。
「なんと可愛い子ネコ! そう『寝湖』はネコが釣れる湖なんです!」
カメラが引きの画面になると、そこら中に自ら釣ったネコを愛でる観光客でいっぱいだった。
ときおり、湖の乳白色の水の中に魚影ならぬニャ影が見える。
「いや~、張本さん、とっても可愛いですね」
リポーターの福地が子ネコを撫で様としたそのとき、なんと張本は湖へその子ネコを返してしまった。
「俺は昔っから稚魚はリリースするんだよ。大きくなってからまた俺に釣られろよってな」
「え、いや、でもここでは別に子ネコでも……」
「あれ、サバネコって言うんだろ。ネコでもサバはサバだ。俺のポリシーは曲げられねぇよ」
「えーっ……」
困惑した表情を見せる福地に構うことなく、張本は2投目を放った。
「お、また早速来たぜ!」
この一言に福地は安堵する。これで取り高は大丈夫だなと。
しかし、釣りあがったネコは先ほどと全く一緒の子ネコだった。
「あ、待って――」
福地が何か言う前に子ネコは湖へと返される。
張本はさらに餌をつけ、竿を振るう。
しかし、何度やっても同じサバネコしか釣れない。
仕舞いにはそのサバネコのお腹はどんどんと膨れ上がり、コロコロとさらに可愛らしい姿へと変貌していく。
「くっ、このプロの釣り師である俺が子供しか釣れないだと、そんなバカなっ!」
「えっ! もういいですから張本さん、止めてくださいっ!」
リポーターとして止めに入る福地だが、張本はその静止を振り切る。
「うおりゃぁぁ!!」
何度も竿を振る張本の姿に頭を抱えながら、福地は切り出した。
「以上、『寝湖』からのリポートでした」
キャット&リリース タカナシ @takanashi30
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