16 感情

 自分は怒られ慣れていないと感じることがあった。確かに、いい子を演じればいいと思っていた。昔親父にこっぴどく叱られ殴られたり、母にヒステリックに責められたりした結果、嘘をついてでも親が頷くいい子を演じようとしていた。その結果、取り繕うことだけは上手くなっていた。


 しかし、それは社会では通用しない。ヘマすれば怒られるし、言い訳も効かないことは自分でもわかっているから怒られるたびに自分を責めるようになっていた。


 なぜこんな簡単なことが出来ないんだろう。出来ないくせに簡単、やればできると侮っている自分がいることが嫌だった。持っている能力はこんなもんだったのか。なんでも出来る、可能性はいくらでもあると思っていた自分が情けなくなった。


 そこで、やるしかない、と思える人は本当に強い人だと思う。素晴らしいことだ。自分を客観的に見つめなおし、指摘を受け入れられるだけ取り込んで成長していく。そうやって自我、アイデンティティが形成されていくのだろう。


 私は怒られたくないがために嘘をつき、つけない時は怒られてしょぼくれて、何も得るものが無いまま育ってきてしまった。そこに研究の失敗が突き刺さったのだ。一度立ち直ったと思ったが社会でまた突き刺さった刃。本来なら入れる鞘があるのが私には無かった。ただ体に突き刺さり、抜けずに痛めつけられているような感触。


 怒られる場合、そこに愛がある時と無い時、もといストレスをぶつけているだけの時があるという。私にはそれが全く分からないまま、向けられた愛が刃に変わっていくのを感じた。

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