サバイバルホテルでお気軽に修羅場

ちびまるフォイ

宿泊目的のお客様のみお立ち寄りください

「いらっしゃいませ! サバイバルホテルへようこそ!

 当店ではお気軽にサバイバル生活が楽しめます!」


「聞くと、このホテルに泊まっている間は

 完全に外部からシャットアウトされて、内部から連絡もできないんですね?」


「ええ、よくご存じですね。

 サバイバルというからには本格的なものを心がけております」


「泊まります!!」


男は最も期間が長い『ガチサバイバルコース』を選択した。

スタッフに案内されると、ドアの向こうには無人島が広がっている。


「サバイバル生活を始める前に、1つだけ好きなものを持ち込むことができます。

 釣り道具とか、植物の本とか、ナイフとか。なににしますか?」


「ああ、それならもう決めています」


男は1枚の紙を無人島に持ち込んだ。

これにはのちのちスタッフも外でどよめくことになる。


「なんで紙……?」


「子供からの手紙とかじゃないのか。

 辛くなったら読み返して元気もらうとか」


「いや、うちのホテルそんなに生きるのに厳しい設計じゃないよな……」


サバイバルホテルといっても単に無人島に放り出すものとはちがう。

きちんとホテル側の管理が行き届き、宿泊客が死なないように設定されている。


無人島に1人となった男はこれから始まるサバイバル生活にせいを出した。


「よーーし、まずは家を作らなきゃらな!!」


都合よく、海には家づくりの骨組みになりそうな流木がいくつもある。

ここのホテルスタッフの管理は万全だ。


家を組み立てるとちょうどお腹が減ってきた。


「しまった……先に食料確保しておくんだったな……」


サバイバルでの生活優先度を痛いほど痛感したとき、

奥のしげみからがさがさと音がする。


「おお! なんていいタイミング!!」


タイミングよく転がっていた先のとがった木の棒を持って突進する。

とらえたのは無人島に生息するイノシシだった。


「やったーー! 肉にありつける!! うほほー!」


言ってしまえば昨日の夜も普通に肉を食べていたが、

無人島で肉を食べれると思うとまた別格だ。


不思議と火が起きやすい木をこすって火を作り肉にありついた。


「はぁ~~。本当にサバイバルだ。

 誰からも干渉されず、誰にも干渉しない。本当に幸せだなぁ」


都会では見ることのできない満天の星空を見ながら眠りについた。

その様子をモニター越しにスタッフは眺めていた。


「満喫しているみたいですね」


「よかったな。眠ったみたいだし、島の猛獣削除しとけよ」

「はい」


その後も、男はサバイバル生活をエンジョイし、何日も何日も延長宿泊をつづけた。

最初からそれは織り込み済みだったようでお金もしっかり用意している。


「室長、あの人また延長しましたよ。そんなに無人島気に入ったんですかね?」


「よほど都会に疲れてたんだろうな。我々の仕事はプライベートに立ち入ることじゃないぞ」


「はーーい」


などと言ってられたのも、10度目の延長が来るまでだった。

さすがに心配になり始める。


「室長、さすがに大丈夫ですか?

 無人島になじみすぎて、今度は逆に日常生活に戻れなくなるなんてことも」


「たしかにまずいな……。それにロビーでも奥さんらしき人物が

 最近出入りしはじめているみたいなんだ」


「え!? それって夫の帰りを待っているんじゃ」


「お金をもらっているのに、客を帰らせるわけにもなぁ……」


「でもうちのせいで夫が原住民になっちゃそれこそ問題ですよ!」


ホテルスタッフは大慌て。

苦肉の策として、自主的な退去を促すようサバイバルの難易度を上げた。


平穏だった無人島には突如、台風が吹き荒れ家は飛ばされる。


「室長! ぜんぜん帰ろうとしません!!」


「ダメか! 今度は日照りだ!!」


ホテル側から支給する動物を止めて日照りを続けた。

灼熱の砂浜にさすがにギブアップするはず……。


「し、室長! まだ宿泊客からのギブアップはきません!!」


「なんてタフなんだ!」


ホテル側からの災害をものともしない宿泊客。

このホテルに籠城されて夫婦関係が破たんすればこっちが迷惑だ。


「室長、どうしましょう……もうどうあがいても帰ってくれませんよ……」


「このぶんじゃ、お金を返金したとしても帰らないだろうな……」


悩んだ末に思いついたのは、夫の帰りを待つ奥さんの存在。


「そうだ! 無人島に奥さんを送り込もう!」


「室長、それはどういう……」


「立てこもり事件で母親を読んだりするだろう?

 自分以外の人間が困っているのを知ったら無人島から出てくるはずだ。

 そうじゃなくても、2人いることで居心地の悪さで出てくるかも!」


スタッフはロビーにいる奥さんに声をかけて事情を話した。


「わかりました。私も無人島にいきます」


「ありがとうございます。ホテル側の都合に巻き込んでしまって、すみません」


「いいえ、私も夫に用がありましたから」


「宿泊料はもちろん免除しますが、

 一応ホテル側ではなくあなたの意思で来たというていで進めるため

 正式な宿泊プロセスを踏ませてもらいます」


「かまいません」


通常の宿泊客同様に手続きを済ませる。


「最後に、無人島に持っていくものを1つ決めてください」


「コレです」


奥さんは夫いる無人島へと送られた。

これできっと説得してくれるだろう。


「しかし……無人島にハンコ持ち込むなんて、何に使うんだ……?」




無人島に到着した奥さんは、

夫が持ち込んでいた離婚届を奪い取ると

ハンコを押してすぐにサバイバルホテルを出て入った。


無人島に住み着いてしまった男は怒っていた。


「どうして嫁を入れたんだ! 外部から干渉されないと聞いたから

 逃亡先にこのサバイバルホテルを選んだのに!!」

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