愛する人を探して

愛する人を探して、歩いてきたこの道


愛する人を傷つけないように、愛する人を見失わないように、自分を傷つけながら歩いた



とても遠い道のりを、一人目を伏せて歩いた


目に見えるものに騙されないように、目に見えないものを見落とさないように、視界が失われるまで歩いた



とても長い時間を、一人耳を塞いで歩いた


耳に届く甘い囁きに自分を見失わないように、耳には聞こえない心の声を聞けるように、何も聞こえない時間を歩いた



とても孤独な空間を、一人口を閉ざして歩いた


無意味な嘘をつかないように、言葉では伝えられない思いが伝わるように、言葉の響きを忘れるほどに歩いた



愛する人を探して、たどり着いたこの場所


もう目に見えるものは何もなく、もう耳に聞こえるものも何もなく、もう口にする言葉もない


自分は一体何を求めていたのかすらも分からなかった


愛するということさえも、一体どういうことなのか分からなくなった


目にも見えず、耳にも聞こえず、音でさえも表せない


そんなものが愛なんだと、探し求めた


そして、今、自分に残ったものは何もない


何もない道に、ただ立ちすくし、何もない自分を見つめる


ただ間違いだらけの道のりを振り返る


私はまた光も無く、音もなく、言葉もない道を歩き出す


失った自分を探して

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