第207話 祭の終わり

 11月7日日曜日14時20分。

 とうとう材料も売り物も底をついた。

「当屋台、全品売り切れにつき終了です。皆様お疲れ様でした」

 完全に屋台を仕切っている能ヶ谷がそう宣言する。

 湧き上がる歓声。


「さあて、片付けて集計して山分けするぞ!」

 終了作業がはじまる。


 まずは学生会工房へ屋台を動かしていく。

 屋台そのものは学生会工房にて解体予定。

 解体して捨てるのでは無くある程度部品を残して来年も使うそうだ。

 部品は来年まで工房に保管。

 既に詩織先輩に話は通してある。


 抜き取った揚げ油は魔法により焼却処理。

 そして屋台はどんどん解体されていく。

 主戦力はやっぱりホアンマンとデイブの工作魔法組だ。


 更に工房の作業台。

 ここにはノートパソコンを置いてお金を数えながら集計している一団。

 そして屋台が完全に解体され工房の右奥に収納された頃。

 会計組による計算結果が発表された。


「発表します!今回の全売り上げは84万4,600円です!」

 おーっ!という声。

 そして拍手が起こる。

 他の模擬店はわからないが、これは結構いい数字なのではないだろうか。


「そして仕入れ等の経費を引いた利益は、63万3,450円!1人あたり3万164円の儲けで6円余る計算になります!」

 再び歓声と拍手。


「なお各自への支払いは後日銀行振り込みで行います。残り6円は適当な募金に寄付でもする予定です。詳細は後日書類で回します。それでは皆様、お疲れ様でした!」

 と無事解散。

 僕は工房のシャッターを閉じ、鍵を閉めて学生会室へ。


 ちょうど3時のおやつが終わった時刻らしい。

「朗人、そろそろ来るだろうと思って取っておいた」

 愛希先輩が手招きしている。

 今日のおやつは豆大福だったようだ。


「どうせなら半分にしましょう」

「いいのか、私はもう食べたけれど」

「いいじゃないですか」

 料理で散々酷使したおかげで豆大福を半分に切る魔法位は杖無しでつかえるようになった。

 割って半分を愛希先輩に。


「そういう時は半分口にくわえた状態で、そのまま愛希先輩に食べて貰うんですよ」

「ポッキーゲームじゃないんですから」

 沙知先輩の戯れ言を軽く一蹴。


 愛希先輩はあの日以来特に変わった事は無い。

「あれだけ朗人にフォローされておいてそれでも心配って言うなら、今度は私が愛希を怒ってあげますわ。まあ、もう心配は無いでしょうけれど」

「あの日以来愛希先輩は大分落ち着いたようですわ。私はまだプロじゃないですけれど、もう心配ないと判断してもいいと思います」

 と理奈先輩と沙知先輩それぞれ大丈夫だと言ってくれたけれど。


 ソフィー先輩はスパモン教の伝道。

 ルイス先輩は滅多斬り大会の決勝と表彰式。

 詩織先輩は行方不明。

 エイダ先輩と青葉は美南先輩とともに最後の学園祭食べ歩き中。


 美雨先輩と典明は”本格的なデート”中だそうだ。

 昨日典明が寮の僕の部屋で夕食を食べながら色々計画を練っていたからな。

「美雨先輩に本格的にデートしようと言われているんだ。どうも朗人達の様子を見て微妙に対抗意識を燃やしているらしい。頼むからあまり見せつけないでくれ」

 そう言われても困るのだけれども。


 突如、詩織先輩が部屋の中に出現。

 色々紙袋を持っている。


「あれ、朗人もう戻っていたのですか。なら誘えば良かったのです」

「何をですか」


「今年の刀をお得意様に納品に行ったのです。毎年特区へ来て買ってくれる方なのですが、今回は用事があって来られなかったのでこっちから納品に行ったのです。

 ついでに今年の刀の評価もして貰ったのです。


『昨年より更に一歩前に進んだいい作品だ。攻撃的な刀かと思えばしっかりとした安心感もある。昨年と比べると同じ動作をしても体が前に進んでいくようだ。悪い意味では無い。それだけ刀に一体感を感じるのだ』

という事だそうです」


 それって完全にプロのコメントだよな。

 どんな得意様なんだそれは。


「あと、遠出するついでにお約束のパンパーティ用パンを買いだしてきたのです。今日はプチメックを始めビオブロートとか関西中心なのです」

 紙袋の中はパンだった。

 ひたすらパン、パン、パン……


「例年最終日は皆でここでパンパーティをするんだ。学園祭の事故防止対応で学生会役員は全員18時まで残るしさ。なんでここで皆でパンを食べて祭りを見送るのが毎年恒例だよな」


「それも私はこれが最後なのですよ」

 そうか、詩織先輩は4年だから今年で学生会最後なんだよな。

 まあ保養所には顔を見せるだろうし、工房に刀を作りにも来るだろうけれど。


 典明と美雨先輩が戻ってきた。

 更にルイス先輩、ソフィー先輩、そして青葉とエイダ先輩も相次いで戻ってくる。

 エイダ先輩と青葉は紙袋を下げていた。


「おみやげです。でも少しかぶっちゃったかな」

 出てきたのはクッキーやチーズケーキ等の焼き菓子類だ。


「いやいや、大歓迎なのです。多少多い位がちょうどいいのです」

 まあここの皆さんならそうだろうな。


 外で花火の音が鳴り始める。

 お祭り最後のプログラムだ。

 そして圧倒的なパンや焼き菓子を前に、仁義なき戦いが幕を開ける。

 僕の学生として最初の学園祭は、こんな感じで幕を閉じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る