第126話 げに函館の夜も更け

 結局その後、僕達はタクシー2台で宿へと帰る羽目になった。

 愛希先輩と理奈先輩が揃ってダウンしたからである。


 原因は何段にも重なったでっかいハンバーガー。

 そうでなくとも愛希先輩、夕食食べすぎて電車で座っていたのに。

 自業自得だ。


 なお沙知先輩は同じハンバーガーを食べ、更にイカ焼きまで食べたのに平気だ。

 もちろん平気な理由は胃袋の容量のせいではない。


「沙知は胃袋の中まで魔法を使えますから」

 美雨先輩の言葉なので事実なのだろう。

 消化促進、内容物圧縮、幽門開閉等色々な魔法を独自開発しているそうである。

 なお全て自分の身体専用。

 美雨先輩をして『才能の無駄遣い』と言わしめるその実力はきっと認めていい。


 そして午前1時、僕は疲れて逆に眠れない。

 こうなるにはまあ色々とあった訳だ。


 まず宿への帰り。

 愛希先輩と理奈先輩に挟まれてタクシーに乗っていた時点で気力がもう限界。

 両方が

「ウッ!」

とかやっているし、色々気が気じゃなかった。

 僕に対する運転手さんの視線も微妙に厳しかったし。


 宿についても僕の苦労は終わらない。

 何とかエレベーター呼んで無事に部屋につくまでがまず一苦労。

 トド2名は歩くのも辛そうで所々で立ち止まるしさ。


 そして部屋でも更に苦労だ。

 2人とも浴衣すら面倒だとか、帯をしめるのきついとか。

 挙げ句の果てには保養所と同じ寝湯が欲しいとか言っているし。

 浴衣すら苦しいから全裸で寝るという主張は断固阻止したけれど。

 ちなみに愛希先輩の勝負パンツはピンク色のフリフリ付きだった。

 もうこういう状態だからエロいとすら感じないけどさ。

 いざという時用に洗面器とお茶のペットボトルとスポーツドリンクのペットボトルも用意した。


 なお典明達は薄情なもので、昼間は開けっぱなしにしていた2間を隔てるふすまがしっかり閉まっている。

 布団は3人3人で敷いてあり、こっちは僕と愛希先輩と理奈先輩。

 向こうは全員無事なんだよなと思うと何か恨めしい。

 まあ問題の2人も今ではちゃんと寝息が聞こえているから大丈夫だけどさ。


 あ、寝息と言えば問題ある奴がいるんだった。

 向こうの部屋は大丈夫かな。

 よく聞けば危険信号が聞こえているな。


 そう思ったら隣とのふすまがゆっくりと開いた。

 寝たままその場を観察。

 沙知先輩がこそこそと布団を引っ張ってきた。

 そして案の定、向こうの部屋からいびきが聞こえる。


 うん、典明は疲れるとこうなるよな。

 だから奴は保養所でもウォークインクローゼットで寝ているんだ。

 本人も自覚があるからな。

 今日はこの布団配置だから逃げようが無いけれど。


「ごめんなさい、ちょっとここの空間お借りします」

 沙知先輩は僕が起きているのに気づいているようだ。

 まあ先輩は魔法レーダー持っているからな。


「美雨先輩は大丈夫なんですか、あれで」

 盛大ないびきが聞こえてきている。


「愛の力は全てを凌駕するみたいですわ。何か愛おしそうに見ています。さすがにつきあっていられないので逃げさせて貰いましたけれど」

 まあ、逃げる方が正しいよな。

 僕も特区見学の夜、これには悩まされたから。

 そんなこんなで夜も更けていく……

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