第124話 ダブルデートな気分です

「前にハワイのワイキキの夜景も見た事があるんだけれど、こっちの方がいいな」

「何か凄いところへ行っていますね」

 よく考えると愛希先輩の事をあまり知らないな。

 私立中学出身だし、愛希先輩の家もお金持ちなんだろうか。

 そんな事を思いつつ。


「種明かしすると、詩織先輩だ」

 その一言で思わず納得した。

 いかにもありそうな話だ。


「今度は札幌でも夜景を見るんだろ。どっちが綺麗かな」

 思わず『君の方が綺麗だ』という台詞が浮かんだが勿論言わない。

 まだそこまでの仲じゃないし。

 それに愛希先輩は綺麗でもあるけれどどちらかというと可愛い派かな。


「札幌のはまだ見た事ないけれど、海がある分こっちが面白いかもしれませんね。地形が良くわかって」

 うん、無難な回答。

 というかホテルからずっと愛希先輩と一緒だけれどいいのだろうか。

 愛希先輩は先輩だけれど可愛いし性格も好きなんだけれども。


 詩織先輩のあの笑顔の印象はいまだ強烈だ。

 でも一緒にいるなら愛希先輩の方がいいのは確かだ。

 色々話していても楽だし常識も近いし。


 ずっと見ていてもきりが無いので下へ降りる。

 3階の山頂広場で典明・美雨先輩組に遭遇。

「よ、どうした」

「いや、そこの函館山のモニュメントで写真でも撮ろうと思ってさ」

 見ると確かに片隅に函館山と書かれた三角形っぽい形の石製構造物がある。


「なんなら撮るよ。ストロボ機能は大丈夫か」

「一応セットはしてある。夜景モードにもなっているから多分大丈夫だ」

「なら美雨も典明も見える程度に近づいて」


 幸い人が多くないので写真待ちも無い。

 なのであっさりと2人の撮影に成功。

 そして今度は僕も愛希先輩と一緒に撮って貰う。

 なお典明と美雨先輩組を撮ったスマホは美雨先輩のものらしい。

 美雨先輩が首を傾げながら今撮った写真を見ている。


「今の私にはよくわからないが、こういう行動もきっと意味があるんだろうな」

「意味なんてあえて考えなくてもいい。強いて言えばこの時この場所で一緒にいたという記念みたいなものだ。後でこの写真を見て何か思うかもしれない。その可能性だけでもいい、きっと」

「そんなものなのか」

 そう言って美雨先輩は頷く。


「ところで典明達はどうするんだ、これから」

「そうだな」


 奴はわざとらしく夜空を見上げてから言う。

「月が青いんだよな、とっても」

 あ、僕だけでは無く愛希先輩にも通じたようだ。


「ならここの土産物屋を見た後、ちょっと散歩してかえろうか、一緒に」

 愛希先輩がそんな提案をする。

「いいですか。ちょっと歩きたい気分ですし」

 典明はそう言って同意する。

 というか、月が青いと言っている時点で誘っているのは典明なのだが。


「美雨はどう」

 先輩も頷いた。

「そうですね」


「ならお土産を確認したら一緒に行こうぜ。お店はもうここしか開いていないと思うけれど、風景見るだけなら色々名所もあるしさ」

 という訳でここからは4人行動になった。

 見かけはまさにダブルデートだ。

 いや実質もそうか。

 今までの人生で無かったシチュエーションだ。

 だから微妙に頭が混乱している。

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