第91話 炊き出し装備も常識外
午前9時55分に皆で保養所を出る。
なお学生会としてはOBだけれど香緒里先輩にもついてきて貰っている。
これはスーパーで買った重い物等を車で学生会工房まで運んで貰う為だ。
スーパーとバネ工場は同じ建物の同じフロア。
なのでバネ工場の搬送口まではスーパーの台車でゴロゴロ重量物を引いていける。
なお購入したのは揚げ物用の油を2缶とか、パン粉10袋とかもう良くわからない単位。
一応昨年のデータを元に注文しているらしい。
他に何か必要な物があるか聞かれたので、取り敢えず買い出しリストに入っていない日本酒を1.8リットル入り紙パック3箱、片栗粉2袋、酢3瓶、キッチンペーパー6巻ほど追加。
あとはまあ、魚やストックしてある野菜を見て考えよう。
のんびり学校まで歩く間も料理の工程を考える。
相手が1000人規模なら作り置きメインで、現場調理は最低限かつ最小時間で済む事が望ましい。
刺し身は切ればいいだけだが、他は……。
まあ揚げ物は昨年もやったから大丈夫なのだろう。
煮物と焼き物は……煮物は調理しておいて保存しておくしかないな。
焼き物も極力その方針でいこう。
魔法使いが山ほどいるので氷温保存とかの反則技もかなり使える。
それを使って組み立てないと仕事が回りきらない。
というか前担当は奈津希先輩だっけ。
一体どうすればそんなに大人数相手に料理を出来るんだ?
でもまあ、僕は常人だから真似は出来ないししない。
出来る範囲で最善を尽くすまで。
色々考えているうちに工房についた。
「で、取り敢えず使える鍋とか調理道具を見せて貰えますか」
愛希先輩にお願いして案内して貰う。
で、やはり僕はこの学生会の非常識さを知る事になるのだ。
「この、どう見てもそこの直径が1メートルある巨大鍋は何ですか」
「あら汁炊き出し用の鍋だよ。修先輩が突貫で作ったらしい」
円柱の体積は半径の2乗に円周率をかけて高さだよな。
高さのうち有効に使えるのを50センチとすると……おいおい。
「こんな中に液体入れたら400キロを超すような大鍋、どうやって運ぶんですか」
「空の時でもロビー先輩に筋力増強魔法をかけないと辛いかな」
ああ、確かにこれなら鍋1個で1000人分の汁物は作れそうだ。
でも。
「これって火にかけられないですよね」
コンロが壊れるな。
「当日は中を一度煮立たせた後、香緒里先輩に鍋全体が65度になるように魔法をかけてもらうんだ」
非常識料理、了解しました。
あとは底が直径60センチサイズの寸胴が3つ。
フライパン代わりと思われる蓋が閉まる巨大ホットプレート2組。
油を一斗缶1個分使うフライヤーが2つ。
何に使うか不明な超巨大オーブン。
魚専用と書かれているコンクリ用トロ箱にしか見えない箱多量。
うん、世間の常識から色々飛んでいるけれど、確かにこれなら1000人分の料理も仕込めるな。
自衛隊の補給班も真っ青だ。
なら野菜の方はどうだろう。
どう見ても木製の物置にしか見えないものの扉を開けて中をちらりと見る。
うっ、大根山盛り!
ショウガもたんまり。
レモングラスやパクチーがそれとなくある。
これはきっと、南国風も作れという詩織先輩の見えない圧力。
いいだろう、何とか考え出してやる。
焼きは無茶は出来ないから、揚げ系統で色々やるかな。
それにしても……
「この機会しか使えそうも無いこんな大物調理器具、よくこんなに揃ってますね」
先輩方が顔を見合わせる。
「最初はここまで多くなかったんですけれど、年々色々増えてきて……」
「まあ、そのたびそのたびに魔法工学科の誰かが色々作っていましたしね」
なるほど、何となく了解だ。
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