第26話 保養施設の夜(1)

 着替えて大広間に出ると、そこは既に宴会場だった。

 左側がカラオケ、右側が卓球、そしてキッチン側の座卓では何やら怪しげなゲームらしき物をやっている。


「確かに保養施設以外の何物でも無いな」

「ああ」


 典明の意見に僕も同意する。

 少しうらぶれた温泉にありそうな会社の保養所そのものだ。

 中で遊んでいるほとんどは女子高専生だけれども。

 例外はさっきまで演歌を熱唱していたロビー先輩とルイス先輩くらいだ。


 そのルイス先輩は座卓方面で女性陣に囲まれて怪しげなゲームをやっている。

 ハーレム状態ではあるが羨ましい感じでは無い。

 むしろ誰か助けてという声が聞こえてきそうな雰囲気だ。


「あれは近寄らない方がよさそうだな」

「確かに。一番無難なのはカラオケかな」


 卓球会場もかなり危険な感じだ。

 今はエイダ先輩対愛希先輩でラリーをしているのだが、動きがもう人間じゃない。

 あそこだけ時間の流れが違うのかという速度で双方が動いている。

 本格的な卓球場ほど広くない上に下が畳という状態なのにだ。


 という訳で俺達2人はカラオケ方向へ。

 今歌っているのは詩織ちゃん先輩だ。


 この曲なら僕も知っている。

 ニコニコでも定番なボーカロイド曲だ。

 宇宙人系というのが詩織ちゃん先輩にある意味ぴったりあっている。


 他にいるのはロビー先輩、香緒里先輩、美雨先輩か。

 顔見知りも多いし入りやすいかな。


「おじゃましてもいいですか」

「どうぞどうぞ」

 美雨先輩と香緒里先輩が少し場所を詰めてくれる。

 僕が美雨先輩の横、典明が香緒里先輩の横へ。


「これは本当のカラオケ装置じゃ無くて単なるパソコンなので、音源はネットで拾ってくるんです。一応ニコニコとYOUTUBEようつべは会員登録してありますし、何なら御自分で音源を持ってきても大丈夫です」

 美雨先輩がそう説明してそう言って10インチのタブレット端末を僕らの前に置く。


「ネットが音源の場合はこの端末で検索して、使う動画のアドレスを出した後軽くタップして下さい。そのアドレスが向こうの演奏端末に送信されて予約されます」


 なるほど、そういうシステムか。

 それならカラオケ使用料もいらないし、ネットにある限りどの曲でも使えるな。

 よく見るとカラオケ装置も自作っぽいし、このシステムもきっと自作なんだろう。

 ハードの自作は経験が無いからともかく、これくらいのプログラムは僕でも何とか組めそうだ。


 僕は取り敢えずニコニコ動画から歌えそうなのを1曲入れる。

 詩織ちゃん先輩が宇宙人系ならこっちは地底人系だ。

 見ると典明も別のタブレットで曲を探しているようだ。


 スキー!の部分を熱唱して詩織ちゃん先輩の歌が終わる。

 次の曲は……お、これもニコ動系か。


 初見では読めない本名でプロのシンガーソングライターをしている某氏初期のボーカロイド曲だ。

 確かにカラオケ用にボーカル無しバージョンも色々入っているからこういう処では使いやすいんだろうな。

 美雨先輩がマイクを手に立ち上がる。


 手を振り回したくなるようなテンポのいい曲が流れ始める。

 そして片手を曲に会わせて振り上げながら詩織ちゃん先輩はタブレット端末を操作する。


「香緒里先輩とロビーは曲は入れないんですか」


「ちょっと休憩です。喉が疲れたので」

「同じくデス」


 詩織ちゃん先輩は更に端末を操作して、急ににやにやと笑いを浮かべる。


「それとこの、ちょっと古めのくそみそお兄さんな曲を入れたのはどっちですか?」

 何だそれは。


 典明が小さく手を挙げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る