第24話 魔女の集会とはサバトです(3)

「ところで何故こんな処に露天風呂があるんですか?」


 僕はごまかしがてら疑問を聞いてみる。


「元はといえば由香里先輩……ルイス先輩から数えて4代前の学生会長で香緒里先輩のお姉さんだけどさ、その人が露天風呂好きで修先輩に頼んでここを作ったのが始めだと聞いている。

 そして年々改良を加えて広く大きくなり、ついにマンションの隣の部屋を買ってこっちの部屋は保養施設化した訳だ。

 修先輩というのは香緒里先輩の前の学生会長。由香里先輩や香緒里先輩の幼馴染みで香緒里先輩の恋人かな」


 なるほど、あの綺麗なお姉さんは売約済みって訳か。

 まあそうだよな、確かに綺麗だしな。


「それにしてもこの露天風呂、独りで作った訳ですか」

 僕は自分のそんな内心をごまかすように聞いてみる。


「そうらしい。香緒里先輩の魔法は借りたようだけれどさ。修先輩というのは魔法工学科で工作関係の魔法持ちでさ、その気になれば道具無しでこれくらいは作れるみたいだ。魔力は少ないけれど強力な増幅機能付きの杖を自作して持っているし」


 強力な増幅機能付きの杖というと心当たりがある。


「あの詩織ちゃ……詩織先輩の杖もですか」

 愛希先輩が動いた気配にまたドキリとする。

 多分頷いただけなのだろうけれど。


「ああ。同じ物を修先輩の他に詩織先輩と風遊美先輩が持っている。風遊美先輩は修先輩の前の学生会長で今は魔技大の4年だけどさ。

 修先輩の杖は研究用兼魔力が少ないのを補う為のものだけれど、風遊美先輩と詩織先輩の杖は移動用だな。あの先輩達は空間魔法で東京だの海外だのへ出かけられるから」

 それは詩織ちゃん先輩にも聞いたな、そう言えば。

 風遊美先輩か詩織先輩が生鮮食品を買いだしてくるって。


「詩織先輩と言えば、そろそろサウナや歩行湯に飽きてきた頃だから始まるぞ」


「始まるって、何がですか?」

「まあ見ていな。樽湯の方だ」


 何だろう。そう思いながら言われた通り樽湯の方を見る。

 4~5秒後。

 一番左の樽湯から水音がし、大量のお湯が跳ねたのが見えた。

 あれはルイス先輩が籠もっていた樽湯だ。


「うわっ!」

「うん、やっぱり最後の締めにはルイスの調節したお湯の温度がベストなのですよ」

 ルイス先輩の声と詩織ちゃん先輩の言葉が同じ場所から聞こえる。

 あれはひょっとして……


「想像通りです」

 不意に愛希先輩と違う声が真後ろからした。

 どうも気配を殺して歩いていたらしい。


「最後の締めにぬる湯、という訳で失礼します」

 僕の横に入ってきたのは、この声は確か……


「補助魔法科2年の綱島沙知、沙知でいいです」


 というかちょっと待った。

 状況がまずい。


 愛希先輩は一応隣の浴槽だし、僕が左前の方を見ていればぎりぎり視界に入らなかった。

 でも沙知先輩は同じ浴槽だ。

 手をちょっと動かせば間違いなく触ってしまうぞ。


 思い切り僕は固まってしまう。

 それこそ指一本動かせない。


「沙知、今日は新入生慣れていないから同じ場所は遠慮しようって話だったよな」

「でも慣らさないとああなります」


 左端の樽湯から逃げ出すルイス先輩が見える。

 もちろん全裸だ。

 まあ男だから平気だけどさ。


「ルイス先輩もいい加減学習すればいいのですけど」

「一応ルイス先輩と詩織先輩は相思相愛なんだが、何せ性格があれだからさ。よくああやって詩織先輩にからかわれている訳だ」

 ルイス先輩が逃げ込んだ隣の隣の樽湯で、また同じ騒ぎが繰り返される。

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