第20話 未来予知なんて普通です(1)
「久しぶりに何か違う料理れすね。美味しそうれす」
今そう言った黄色っぽい金髪の女性がジェニー先輩なのだろう。
「という事は詩織ちゃん、やっぱり」
詩織ちゃん先輩は香緒里先輩を向いて頷く。
「料理をしている処まで見えていたからお願いしたですよ。でも思った以上だったのです」
それは僕の事だろうか?
でも見えたからお願いしたとはどういう事だろうか。
香緒里先輩は僕の方を見て頭を下げる。
「ごめんなさい、無理に料理を押しつけてしまったみたいで。詩織ちゃんが『今度学生会に入る男の子のうち1人は料理が名人級なのですよ』って言っていたので、ついお願いしてしまったんです」
えっ?
少なくとも料理の点については僕は詩織ちゃん先輩に話した記憶は全く無い。
ここへ来てお願いされただけの筈だ。
詩織ちゃん先輩はばつの悪そうな顔をして僕の方を見る」
「実は私は魔法である程度限定的な未来が見えるのです。だから朗人を誘えば刀を作れる事も学生会に2人で入ってくれる事も料理が出来る事も見えていたです。その事を黙っていたのは申し訳ないのです。ごめんなさいなのです」
謝られるより前に限定的な未来が見えるというのが凄く気になる。
それって予知魔法という事なのだろうか?
「まあ詩織の特殊な魔法については食べながら話そう。せっかく美味しそうな料理だから食べ時を逃すと申し訳ない」
ルイス先輩の意見で取り敢えず僕も色々考え始めた思考を中断する。
まあ確かに色々考えるより本人に聞いた方が早いだろう。
「では、いただきます」
「いただきます」
小中学校のような唱和の後、夕食が始まる。
「うん、ちょっと辛いけれど美味しい。でも始めて食べる味だ」
「一応タイ料理っぽく作っています。調味料はここにあるもので代用していますけれど」
簡単に愛希先輩に説明。
まあ僕も本格的なタイ料理なんて食べた事は国内の店で数回位。
後はその時の記憶とネット上のレシピで再現したり作ったりしたものなのだが。
「確かに始めて食べる味だけれど美味しいです。ちょっと癖になりそう」
「そうだね。このすっぱ辛いスープも最初は何だと思うけれど2,3口目には美味しさがわかる感じだ」
「というか前にタイ料理店で食べたのより美味しい気がします」
「僕は始めて食べる系統の味だな。でも美味しい」
「というか朗人いきなりタイ風とは飛ばすよな。てっきり最初は普通の和風か洋風で作ると思っていたんだけれど」
概ね好評のようだ。
よしよし。
「へへへへへ、やっぱり私の目に狂いはないのです」
「詩織!その前に朗人に説明!」
詩織ちゃん先輩がルイス先輩に注意される。
「あ、そうなのです」
そう言って詩織ちゃん先輩は僕の方を見る。
「私はある程度未来を限定的に見る魔法を持っているのです。
なのでオリエンテーション終了後、下校中の新入生全員が見えるように2階廊下の窓際に陣取っていたのです。出てきた新入生1人1人に対して、学生会に誘った場合にどうなるかと魔法で調べたのです。
結果102人目の新入生を見た時見えたのです。
『刀の作成』で誘いかけを行った場合に
○ 刀の製品を作っている姿
○ ここのキッチンで料理している姿
○ もう1人と一緒に所属届を書く姿
という未来へ続いているのが。
それが朗人だったのです。だからあの日、工房へ誘ったのです」
そう言って詩織ちゃん先輩はトムヤムクンのスープを飲む。
「それって未来予知の魔法なのですか?」
「ちょっと違うのです。通常の未来予知と違って、『ある場面である選択をした場合』を想定すると『その選択の結果生じた未来の一部を見ることが出来る』という魔法なのです。空間操作魔法の応用で未来予知とは少し違う魔法なのです」
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