第19話 料理の変人
キッチン下の収納庫を開けて鍋を確認。
うん、全てでかくて重いが厚みのあるいい物だ。
特にこの中華鍋、多分油が染み易い様に微少な凹凸があるのだろう。
メーカーは不明だがなかなかいい趣味でまとめている。
まあ日本刀を作る位だし自作という可能性もあるけれど。
材料と本日の春とは思えない暑さで今日のメニューを決定する。
暑い日は暑い国の料理だ。
さっき見た限りでは調味料類も全部冷蔵庫に入っている。
基本冷凍品しか売っていない筈なのに、何故生の魚とか生肉とか生鮮野菜があるのだろう。
その辺は謎だがまあいい、好都合だ。
とりあえず皿……12人分だからとりあえずは小さい丼でいいか。
あと汁物用に寸胴一歩手前という感じの鍋を出して水を入れてコンロへ。
出汁代わりに鶏の手羽先を軽くお湯で洗った後放り込んでおく
火力は取り敢えず最大だ。
異形のコンロの性能を見せて貰おうか。
そして冷蔵庫からレモン酢とネギ。
常温用食料庫から赤唐辛子、ニンニク、ショウガ、サラダオイル、ごま油
冷凍庫から冷凍むきエビと各種キノコ冷凍500グラムというのを取り出す。
本当はナンプラーとかパクチーも欲しいがまあ醤油とネギと魚だしで今日は我慢しよう。
全部をある程度手の届く範囲に配置し、皿も背後のカウンターに並べる。
よし、準備はOKだ。
僕は凄く良く切れそうな牛刀を取り出す。
これも多分例の刀工房で作ったのだろう、なかなかいい感じだ。
さて、行くか。
アレ・キュイジーヌ!
◇◇◇
久しぶりにこれ程の量を作ったが、まあ悪くは無い出来だと思う。
ちなみに今日のメニューは
○ ブリ系と思われる白身魚の刺し身アジア風ソース付き
○ 豚肉卵トマト炒め
○ トムヤムクン、ただし素材の都合により若干和風
○ 大根と春雨のサラダ(味だけはソムタム風)
の4品である。
もう少し作っても良さそうだったが、ご飯が炊けるまでに盛り付けして出すのを優先した結果、4品になった。
まあトムヤムクンとサラダは具沢山だし、肉も魚もあるしまあいいだろう。
「すみません。それではそろそろテーブルの用意をお願いします」
そう言ってふと気づいた。
何か僕を見る視線が変わっている?
「どうかしましたか?」
若干言いにくそうに典明が言う。
「朗人、前もそう思ったんだが、料理している時人格が変わるって言われないか」
そう言われても。
「基本的に料理は1人で作るからあまりそう感じた事は無いけどさ」
「まあ美味しそうに出来たから、皆で運んでご飯にするですよ」
詩織ちゃん先輩が何かごまかすように言うのが微妙に気になる。
でもまあ、早く食べないと味が落ちるしな。
取り敢えずおかずと取り皿等を運び終わったところで炊飯器も完了を音で知らせてくる。
かなり重そうなそれをロビー先輩がマッスルな腕で下げて運んで行く。
僕も台所を一通り片付けた後、皆の方へ。
改めて見ると……
何畳あるのだろう、というだだっ広い和室だ。
保養施設というか、宴会場だなこれは。
カラオケセットらしき物も設置されているし。
「香緒里先輩とジェニー先輩を呼んできます」
美雨先輩がそう言って台所の右の廊下へと消えた。
すぐに2人の女性を連れて戻ってきた。
1人は前に工房で会った香緒里先輩だ。
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