第9話 変人も固まる工房
金曜日の4限は特別活動、平たく言うとホームルームだった。
まあ学級活動というのだろうか。
今回は1人1人の自己紹介とか質疑応答とかでほぼ90分が終わってしまった。
ちなみに金井さんが自己紹介で
「得意魔法は火炎系です、キャンプファイアー!」
と言いつつ手のひらの上に巨大な炎を上げて室内の学生をびびらせていた。
先生だけは慣れたものらしく、
「この高専の校舎は対魔法処理してある。問題ないが事前警告はしておけよ。人間は対魔法処理していないから焦げるぞ。まあ死んでなければ修復は出来るがな」
と平然と言っていたが。
いいのかそれで。担任の田奈主任教授!
まあそういう騒ぎはあったにせよ結果的に無事に放課後になる。
「よし、行こうぜ」
と緑山は早くも鞄代わりのディパックを右肩に提げる。
「早いぞ」
そう言いつつ俺も鞄を肩に掛ける。
幸い4限がそんな感じだったので鞄の整理は終わっているし。
「何処へ行くんだ?」
「本官は三輪被疑者が怪しい活動をしているようなので確認に行くのであります」
「お達者で~」
という感じで級友の詮索も特に受ける事はなく教室外へ。
校舎内を通れば学生会工房は近い。
昨日より更に30秒近く短縮して工房に到着する。
今日はロビーさんもいないが、工房のシャッターは開いている。
ならば、きっと。
「今日は2人なのですか」
やっぱりいきなりという感じで声をかけられる。
詩織ちゃん先輩は気配を潜ませる趣味があるのだろうか。
「昨日の刀を見たら色々興味をもったらしいので連れてきました。緑山、詩織先輩だ」
詩織ちゃん先輩と言いそうになったがなんとか大丈夫だ。
「初めまして。
何か緑山の言葉が変だ。
いつも変なのだが何かこう、いつもとは違う変さだ。
「私は魔法工学科4年の田奈詩織なのです。宜しくなのです」
詩織ちゃん先輩の名字は始めて聞いた。
田奈という事は、あの田奈先生の身内か親戚なのだろうか。
全然似ていないけれど。
それにしても4年生には見えないな、2年生かと思った。
そう思ってふと、僕自身も自己紹介していない事に気づく。
「申し遅れました。僕は同じく魔法工学科の1年、三輪朗人と申します」
「了解なのですよ」
詩織ちゃん先輩はそう言って頷いた。
「で、何からやるですか。包丁からやるですか?」
「その前に、昨日脇差しを作った鋼材を見せていただけないでしょうか」
やっぱり緑山が変だ。
金井あたりとの対応を見ると女性恐怖症という訳でもなさそうだしな。
「いいのですよ。こっちなのです」
詩織ちゃん先輩は奥へと案内してくれる。
と、その途中緑山の足が止まった。
「どうした緑山」
「こ、これはひょっとして目立魔法工機のフレキシブルマルチ加工機の最新型でありますか」
包丁や刀を研いだあの異形の機械を注目した状態で緑山が固まっている。
「そうなのですよ。今年の3月に入ったばかりの最新鋭なのです」
「そんなに珍しいのか?」
「不器用な技術屋の憧れの逸品だぞ、これ」
少しだけ口調がいつもに戻っている。
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