第3話 包丁作りと魔女2人
「ただ詩織ちゃん。詩織ちゃんや私は魔法で防護出来るからいいけれど、普通の人はせめて上は作業服を着た方がいいと思います。火傷をしたら大変ですから」
という事は彼女もやはり魔女なのだろう。
そう言えば魔法効果付の炉はこの先輩が作ったと言っていたな。
「つい忘れていたのです。用意するのです」
「とりあえずは修兄ので大丈夫じゃないかしら。卒業したしもうこの工房は使わないと思います。サイズも同じ位ですしね」
お、第3の人物の名前が出てきた。
修兄という事は香緒里先輩のお兄さんだろうか。
卒業したという事はここの先輩にあたるんだろうな。
「さて、温度も冷めてきたようですので研いで仕上げるのです」
「私も見てみたいですね、これならきっと仕上がりもいいと思います」
3人で工房の奥にある工作機械類の方へ歩いて行く。
何本ものアームがある異形の機械の中央に包丁をセットすると、詩織ちゃん先輩はどこからともなく何かを取り出した。
「さてこの工程の前にこれを上に着るです」
さっきまでこんな物持っていなかったよな?
置いてあったようにも見えないけれど、まああるものはしょうがない。
僕は渡された作業服に袖を通す。
ほぼちょうどいいサイズだ。強いて言えばほんの少しだけ袖が長いかな。
「さて、伝統工芸の日本刀は1本1本手で研ぎ師が研ぐのですけれど、うちのは実用本位の量産品なのでそんなに手間をかけられないのです。なので便利な魔法工作機械を使うのです」
詩織ちゃん先輩はそう言って異形の機械を指さす。
「最新型のフレキシブルマルチ加工機なのです。魔法仕様で細部まで完璧に仕上げてくれるのです」
「詩織ちゃんと詩織ちゃんのお父さんは工作機械が好きなんです。便利だと思うとすぐ買っちゃって。置き場所が無くなってここに置いたりしているんですよ。これも特区以外には持ち出せない最新の機械です」
香緒里先輩が説明してくれる。
でもそんな機械って凄く高価なのではないだろうか?
ひょっとして詩織ちゃん先輩って金持ちのお嬢様なのだろうか?
そうは見えないけれど。
一方詩織ちゃん先輩は近くの端末に何やら打ち込んでいる。
ひょっとしたら加工機械とネットワークで繋がっているのだろうか。
「それでは仕上げ開始なのですよ!」
ぽちっとな、と言いながら詩織ちゃん先輩はマウスのボタンを押す。
何本かのアームが小型の砥石らしき物を自動でセットし、動き始める。
またアームのうち2つはオイルらしき液体を包丁に注ぎ始めた。
「これで包丁なら3分程度で仕上がるのです。ちなみに加工魔法なしで手動でやると30分以上はかかるのです」
「これが入って少し効率が上がったけれど、刀を作るのが2人ですからね。なかなか注文に応えるのが大変なんです」
今の言葉からすると、ここでの刀作りは香緒里先輩と詩織ちゃん先輩の2人だけでやっているのだろうか。
「ロビーさんは刀を作られないんですか?」
「細かい作業は苦手なのデス。私は動力付きの機械専門なのデス」
微妙な発音の日本語で返事がくる。
「だから刀を作る人大募集中なのです。でも微妙に魔法という以上にセンスの世界なのであまりむやみに人を誘えないのです」
「と言ってもこっちの事情は気にしないで下さいね。新入生ですし色々な希望もあるでしょう。ここの工房は私と詩織ちゃんで細々やっているだけですから」
そんな事を話している間にも最新型という怪しげな工作機械はシュコシュコ健気に動いている。
やがて電子レンジのようなチーン、という音がしてアームの動きが止まった。
一度オイルが風圧で飛ばされた後、洗浄液のようなものが出て包丁から油を綺麗に取り除く。
更に温風で水分が飛ばされ、元の場所に包丁が置かれた時点でもう一度チーンという音が鳴った。
詩織ちゃん先輩が仕上がった包丁を手に取る。
「うん、初心者にしてこの出来はちょっと悔しいけれどなかなかなのです。ただちょっと凶悪な包丁になってしまったのです」
確かに、と俺も思わず苦笑いしてしまう。
刃渡り30センチを超えているし調理道具と言うよりは凶器だろう、そんな出来だ。
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