貴女の所作

青葉芳

芍薬

憧れの先輩とお夕飯。

貴女が

お夕飯はまだかしら。よかったら一緒に。

って言うから

実はもう晩御飯は済ませてた私だけど、

断る理由なんてどこにもなかった。


いつもアイロンを綺麗にかけた白のシャツと

長い脚に黒いスラックスを履いている貴女。

腰まである艶やかなストレートの黒髪を

頭の高いところで一つに結び

黒のピンヒールを履きこなし

背筋をピンと伸ばして歩く貴女。

きっと私の知らないどこかで落ち込むこともあるのだろうけれど

いつも気高く華麗な貴女が美しくて。

貴女を見かけるたびに私の醜い部分がチクチクと刺されるのです。


高級過ぎず

庶民過ぎず

小綺麗で貴女に似合うお店。

お洒落な料理が運ばれて

私が写真を撮ってもいいですか?と許可を取だてる間にも

貴女は相変わらず背筋を伸ばして

手拭きで手を拭いている姿すら美しかった。

綺麗に手拭きをたたんで一息ついて

細く長い指を合わせて小さく

いただきます

と呟いた

写真なんか撮っていた私は急になぜか恥ずかしくなり

私も貴女の真似をして慌てて手を合わせた


食べながら、貴女を少し眺めていた

箸の持ち方は綺麗に育ててもらったつもりだけど

貴女はもっと綺麗に箸を使っていた

口に料理を運ぶ、それだけなのに

仕草ひとつひとつが美しい。

そんな人を目の前にして緊張しないはずもなく

あまり味を感じられなかった。


食べ終わった貴女はまた手を合わせて

ごちそうさまでした

と呟いた。


トイレに行く間にお会計も済ませてしまって

私は根負けだった。



背筋を伸ばして歩く貴女の後ろを

少し下を向いて歩く私。

お店を出る際にもお店の方に

ごちそうさまでした、と声をかけて

どこかの貴族のよう。



私は貴女のようになれる気はとてもしないけれど

だから貴女に惹かれたんだと思います。

私はかすみ草になって

芍薬の貴女を引き立てる役でいい。

それでいいからもう少し、

隣で貴女の香りに酔っていたい。

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