彼の災難、彼女の幸運

今村広樹

前編

 この話がどのような話かについては、後々語られるだろうが、1つ言えることは、この話は我々の住んでいるこの世界ではない、つまり

が、舞台であるということだ。

 といっても、我々の世界とそう違いはない。

 あえて違いをあげるとすれば、この世界では人間のほかに、猫と呼ばれる人語を解するが、猫という動物の頭をしたり、人間としての耳のほかに猫耳が頭についている存在を始め、生態系が異なるということだ。

 そして、『来訪者ビジター』と呼ばれる、主に日本人を元とした人間と暮らしている。

 いまは、そこだけ念頭に置いてもらえれば、よい。

 では、始めよう。



 『ニューラグーン州』は、皇国と共和国の緩衝地帯にある地域であり、同名の州都以外は自然豊かな州である。

 皇国の大元である、『キリシニャン』と呼ばれる宗教発祥の地で、今でも巡礼に訪れる人々がいるという。

 また、付近で一番大きい湖である『ねこ』を中心とした

風光ふうこう明媚めいび風景けしきで知られ、

その南部には『ドラゴニア』と呼ばれる天然の野生サファリ公園パークのような、

それこそドラゴンさまざまな動植物を見ることができる一帯がある。



 ニューラグーン州の州都で、州の名前と同じ『ニューラグーン』には、幼稚園から大学まで一貫校である

『ニューラグ-ン学園』

がある。

 元々は暴君『シメオン』の城があった土地であったが、『エリー』と呼ばれた魔女ウィッチの魔法で事故死(詳細は不明)したのちは、廃墟となっていた。

 その広い敷地に目を付けた創設者『芦屋あしや聡一そういち』氏が、廃墟を全面的に改装したのが、今の広大な敷地の学園である。

 さて、ある日のこと、大量のエロ本やその他諸々を隠そうと、地面に穴を掘っていた中等部の少年が、

「なんにゃ、こにゃあ!?」

と、驚愕びっくりした。

 掘っていた穴の中から、多数の装飾品と一緒に、眠っていた女性のミイラを発見したのである。

 ミイラの学術調査を担当することになった『サタースウェイト』教授は、付近で同時に発掘された装飾品などから

「シメオン時代の女性で、名前はエリーというようです」

と判断した。

 しかし、不思議なことに、このエリーは明らかに現代的な服装で、また歯の治療の跡や銀歯を付けていた(シメオンの時代には、現代のような医療技術はない)。

 ともあれ、サタースウェイト教授の研究室で、色々調査を進めていく中で、1つの事件が発生した。

 教授の助手である『マイク・ロジャース』という青年が研究室の中で、絞殺体で発見されたのである。

 ドアや窓の鍵はかけられていて、いわゆる『密室ふかのう状況』であったが、抵抗の跡があり、また被害者が行方不明になった婚約者から莫大な遺産の管理を任されていたことから、ニューラグーン警察は殺人事件として捜査。

 しかし、未だに犯人は見つかっていない……。

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