第8話 グランアルシュ
GWにつき、来週の更新はありません。
◇◆
≪グランアルシュ≫――商業や工業、文化の中心地にして大陸最大の規模を誇る大型都市である。面積・人口共に俺達が拠点にしている≪ミーティン≫とは比べ物にならない、正しく
その歴史は古く、数ある人類の生存圏の中で唯一古代文明が栄えていた時代から存在している都市と言われている。ギルドの歴史もまた、この都市と共に始まった。
あらゆる情報と先端技術はここを拠点として大陸中に伝播し、物流は必ずと言って良いほどこの都市を経由して行われる。
都市全体が常に活気に満ち溢れており、別名"眠らない都市"と呼ばれる位……まぁ兎に角凄い都市って事だ。パンフレットから得られた情報を見る限り。
だが、到着してみて思う。実際の≪グランアルシュ≫は俺の想像を遥かに超える――やべぇ場所だ。
「すっげぇな、これ……」
喧騒と共に行きかう人々と都市の風景を前にして、俺はポツリと零した。
これまで訪れた村や町、≪ミーティン≫は教科書で見る様な中世ヨーロッパの街並みを思わせる見た目だった。だがここは違う。
車窓から見える景色には、天を突かんばかりに高く聳える異質な建造物の数々。タワーを思わせる物から外観的にどうやってバランスを取っているのか分からないような物まで、種類は様々。どれもこれも、元居た世界や≪ミーティン≫では見た事のない代物だ。夜にもかかわらず煌々と明かりが灯る様は、正に"眠らない都市"だ。
都市の中に走る表通りは、きちんと歩道と車道に分かれて街灯に照らされている。面積が広いので必然的に移動には馬車や
「流石は≪グランアルシュ≫ですね……私も知識ではどういう場所かは知っていましたけど、いざ実際に目にすると感動するものがあります」
「あ、じゃあリーリエは来た事無かったのか。コトハは?」
「うちもあらへんよ。お父さんから話は聞かされとったけど」
「そうか。ラトリアは……あんま思い出したくないか」
「ん……平気。もう、過去の話だから……でも、ほとんど記憶に残ってない」
成程、つまり全員実質初見な訳だ。良かった、俺だけ上京感丸出しで仲間外れとかにならなくて済みそう。
「てかさっきから気になってたんだけどよ、何か道の端っこ光ってね?」
「ああ、魔導線ですね。都市の一角に大気中の魔力を吸収する施設があって、そこで精練した魔力を≪グランアルシュ≫中に行き渡らせているんです。だからここに住んでいる人達は、家で自分の魔力を使って火を起こしたり水を出したり明かりを付けたりしなくても済むんだそうですよ」
「めっちゃ便利だな!」
つまり、
「そろそろ着くみたいやね」
コトハの言葉で、俺とリーリエは会話を打ち切る。やがて俺達を乗せた
「長旅お疲れ様でした。こちらが本日、ムサシ様達にお泊り頂くホテル・≪ルーナ=ドラコ≫です」
「ホテル!?」
マジかよ、この世界でホテルなんてものに出会えるとは思わなかった。しかもリーマンとかが出張先で泊まるようなビジホじゃねぇ、バッチバチの高級ホテルだろこれ!
はぇ~と口を開けて感心している内に、あれよあれよとギルドの職員さんはフロントで受付を済ませると、そのまま俺達を壁際にある壁が円形に窪んでいる場所まで案内する。
そこには、吹き抜けになっているフロアの遥か上にある天井まで伸びる金色の格子が窪んでいる場所に合わせ備え付けられていた。色々と置いてけぼりにされながらも格子の裏側にある円形の床に乗ると、職員さんとホテルの従業員と思わしき品の良い佇まいをした初老の男性が乗り込み、従業員の方が同じ床の上から伸びている石で出来ている円筒のような物に手を翳す。
すると、"ブン"と音を立てて床が淡い光を放った。そして浮遊感を感じると同時に床が一気に上昇を始める。これは……。
「エレベーターまで備え付けられてんのかよ……」
ポツリと呟くと、職員さんは少し驚いた様子で俺を見る。ちなみに他の三人は、何だかよく分からないと言った顔でみるみる遠ざかっていくエントランスを見下ろしていた。
五分ほどで、目的の階層に着く。てかここ最上階じゃねぇか……大丈夫? めっちゃ宿泊費掛かりそうなんだが?
「てめぇ散々金貰ってんだからケチケチするな」と言われそうだが、根っこが庶民なのでどうしても気になる。流石にギルド持ちだよな?
「この奥にある四つの部屋が、今晩ムサシ様達にお泊り頂く部屋となっております。何かありましたら部屋に備え付けられている魔導電信盤に手を触れればスタッフがお伺いさせて頂きます。夕食はこれからお持ちさせて頂きますので、暫しお待ちを」
「私達は明日、朝食が終わった辺りの時間にもう一度伺わせて頂きます。そこから、共にギルドまで向かう形となりますので、宜しくお願い致します」
「あ、はい……」
気の抜けた返事を返すのが、精一杯だった。一通りの説明が終わると、ギルドの職員とスタッフはその場から離れていき後には俺達四人のみが残された。
「……取り敢えず部屋入るか。何かもう、疲れた」
「はい……」
「せやねぇ」
「ん……お腹、空いた」
短く言葉を交わし、俺達はそれぞれの部屋へと向かう。コトハとラトリアの足取りは特に重さを感じさせないが、俺とリーリエはふらっふらだった。
「――飯だ。飯を食って気持ちを切り替えるしかねぇ」
細かい装飾の施されたドアノブを握り締め、俺は自分に言い聞かせる。"ミシッ"と嫌な音がしたが、聞かなかった事にしよう。
兎にも角にも、こうして俺達は≪グランアルシュ≫に辿り着いた。しかしこれはまだ序の口、本格的に忙しくなるのは明日からだ……帰りてぇ!!
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