第43話 VS. 斬刃竜ハガネダチ 4th.Stage
【Side:コトハ】
ムサシはんが動くと同時に、うちとリーリエはんも即座に行動を起こした。
「ハァッ!!」
ハガネダチの一声で殺到するガプテルを
「【
うちの死角を狙おうとしていた八体のガプテルが、リーリエはんの拘束魔法で瞬く間に縛り上げられていく。間髪入れず、リーリエはんの
「【
「フッ!」
光魔法による強化を受けたうちが、すかさず拘束されたガプテル達の首を跳ね飛ばしていく。感覚を強化されているからか、刃を振るう瞬間に目に映る光景はまるでスローモーションの様だ。お陰で、寸分の狂いなく頸部関節を断ち切れる。
リーリエはんは光魔法と闇魔法しか使えないと言うのは知っている。そしてそれが、スレイヤーをやっていく中でどれ程のハンデになるかも……しかし、その戦闘能力はうちが見て来たどの
当り前の様に二つ以上の魔法を同時に使う上、光と闇の二属性を上手く織り交ぜている。その魔力操作と魔法制御は、最早芸術的と言えるレベルだ。
(流石、ムサシはんが“相棒”って言うだけはある――!?)
感心しながら他のガプテル達に斬りかかろうとした瞬間、うち等が居るこの空間を暴力的な殺気が支配した。
反射的に、うちもリーリエはんもムサシはんが居る方向へと頭を向ける。そこでは、極近距離で斬り合いを始めようとしていたムサシはんとハガネダチが居た。
その刃と刃がぶつかろうとした瞬間、ムサシはん達から離れた所にあった壁が突如として轟音と共に砕け散り、その奥からこの濃密な殺気を撒き散らしている
濃緑の鋭い外殻に、強靭な二本脚で立つ巨体。ギラギラと輝く金の双眸の下には、鋭利且つ巨大な牙が幾つも並んでいる……一目見ただけで“強者”と分かるドラゴンだった。
「うそっ、ヴェルドラっ!?」
ヴェルドラ。確か【
そのヴェルドラが現れた瞬間、ムサシはんは即座にハガネダチとの交戦を中断しその場から飛び退く。しかしハガネダチの方は、対応が遅れたのか壁を突き破った勢いそのままに突進してきたヴェルドラに弾き飛ばされ、土煙を上げながら地面を転がった。
全長ではハガネダチに負けるものの、体格では完全にヴェルドラが上回っている。そんな相手の質量と速度を伴った突進を受ければ、体格で劣るハガネダチが吹き飛ばされるのは当然だ。
「ギャオオオオオオオオオオオオオン!!」
それは自分の縄張りを踏み荒らされた事に対する怒りか、はたまたドラゴンの闘争本能か。現れたヴェルドラは、うち等の事などまるで気にも留めずハガネダチへと襲い掛かる。
「グルァッ!」
しかし、ハガネダチの方もいつまでも寝転んでいる様なヤツでは無い。即座に体勢を立て直すと、迫り来るヴェルドラに対して猛毒の凶刃を一閃させた。
その岩をも斬り裂く一撃を、ヴェルドラは頭部の外殻で受ける。頭を守る為の外殻は、総じて他の部位よりも分厚く硬い。さしものハガネダチも両断は叶わず、表面に傷を付けるだけに終わった。間髪入れず、ヴェルドラも反撃とばかりに体を回転させ強靭な尻尾による一薙ぎを放った。
「グルルッ!」
「グガアッ!」
そのままヴェルドラとハガネダチは、お互いに攻めつ守りつの大乱闘へと突入する。巨大、尚且つ高い戦闘能力を持つ二体の戦いは、一撃一撃が交錯する度にその熾烈さを増していく。普通なら、あの間に割り込むなど自殺行為にしかならない。
だが、うち等は……うちは、それを見過ごす訳にはいかない。
『――二人とも聞けッ!』
飛び出そうとしたうちの脳内に、ムサシはんの声が響く。それで、一瞬我を忘れかけたうちの心は急激に己を取り戻した。
『ちょいと予想外の乱入者が入っちまった。仕切り直そうにも、このままだと両方一遍に相手にせにゃならんくなる』
『それは……キツイですね』
『ああ、面倒臭すぎる。だから、先ずはあいつ等を引き離す事から始めよう……コトハ』
『なに?』
『ヴェルドラは俺が引っぺがす。その間、リーリエと一緒にハガネダチを相手してくれ』
「出来るか?」とはムサシはんは言わなかった。それはきっと、うちとリーリエはんを信頼してくれているからだと思う。
『ええよ。うちの敵は元々ハガネダチやし』
『私も大丈夫です……でも、ガプテルは?』
『それに関しちゃ問題無いと思うぜ……周り見てみろ』
ムサシはんに促されるまま、うちとリーリエはんは自分達の周囲を見渡す。そこで視界に入って来たのは、我先にとこの空間から逃げ出していくガプテル達の姿だった。
『ヴェルドラの出現で、ハガネダチの支配が解けた。多分、もう戻って来ない』
『……なるほど。なら、邪魔される事も無さそうやね』
『ですね』
『そう言うこった。したらば、俺は今からあの中に割って入る。ヴェルドラが遠ざかったら、ハガネダチの方を頼むぞ――っとォ!!』
瞬間、ムサシはんの体が掻き消えると共に立っていた場所が爆ぜる。瞬きの間には、既にその姿は嵐の渦中にあった。
「ふんぬっ!!」
「グアッ!?」
「ガルルッ!!」
普通なら蛮勇でしかない突貫を行ったムサシはんは、右手の
それを見逃さず、うちは【
「【
間髪入れず、リーリエはんが闇魔法を発動させる。中空に出現した魔方陣から伸びる四本の鎖。それが二本ずつ、ヴェルドラとハガネダチの身体を縛り上げて後方に引っ張り、更に二体を引き離した。
うちとムサシはんの相手をしながら、強化魔法の効果も合わさってより頑強になったその鎖を引き千切るのは如何にドラゴンと言えど至難の業の筈。この状態で一気に距離を……。
「――ッ!?」
そう考えた時、不意にヴェルドラが発している殺気の向きが変わった。今までは空間を支配するように撒き散らされていたそれは、急激にその範囲を絞りながら密度を上げ、ただ一点に向けられる。その相手は……ムサシはんだ。
「グルルアアアアアアアアアッッ!!」
「ぬおっ! 何だコイツいきなり!!」
背後から聞こえて来るムサシはんの声とヴェルドラの咆哮。しかし、うちはそちらへと視線を向けられない……向ける余裕が、無い。
「ガアアッ!」
「
邪魔者であるうちを排除しようと、ハガネダチが立て続けに頭角を振るって来る。うちはそれを薄皮一枚とて掠らせない様にしながら最小の動きで躱し、今発揮できる己の最速で反撃を叩き込んでいた。この状態で背後に目を向けようものなら、間違い無くうちの首が飛ぶ!
『リーリエ、こっちの【
『っ、はい!』
ムサシはんの指示で、パチンとヴェルドラを拘束していた鎖が消えるのが分かった。同時に背後で爆発的に膨れ上がる闘気。
「オ゛ル゛ァァアアアアアッッ!!」
ガガガガッ! と言う地面が削れる音と、ムサシはんの
「ガルアッ!」
「いかせへんよッ!!」
脅威度が高い方を先に排除しようと考えたのか、ムサシはんとヴェルドラの方へ向かおうとしたハガネダチをうちが押し留める。
≪カルボーネ高地≫で戦った時とは違い、しっかりと自分を保ったまま正確に攻撃を繰り出すうちの姿を、ハガネダチの三つの瞳が射貫いた。
――漸く、漸く! ここに来て
「ハアッッ!」
「ガルルッ!」
雷を迸らせるうちとハガネダチの凶刃が幾重にも交錯する。少なくとも、≪カルボーネ高地≫で戦った時よりはずっとまともに戦えているのが分かった。
もし模擬戦の時のムサシはんの忠告が無ければ、こうはいっていなかったかもしれない……そう考えた時、
空を切った長大な頭角がうちから大きくそれて地面へと叩き付けられ、地面に凄まじい衝撃と斬撃波が広がる。
(――
並外れた精度の剣術を習得しているコイツが、目の前の敵から攻撃を外すなんて事があるのか?
うちが立っている場所から大きく左に逸れた一撃を見て、背中に得も知れぬ悪寒が走る。再び振り上げられ、今度は狂い無く振り下ろされた頭角をうちは横スライドで躱しながらその側面を
そうして弾かれた頭角は、再度振り下ろされ……まただ。今度はうちの右側に見当外れの一撃が叩き込まれ、地面を――。
「ッ!!?」
マズい――そう思った時には、一歩遅く。
振り下ろされ頭角が地面に衝突して一拍空いた時、空間……正確に言えば、ムサシはんとヴェルドラが消えて行ったであろう壁から“ビキィ”という嫌な音が聞こえた。
うちは、咄嗟に全力で後ろへと下がりハガネダチと十分に距離を取ってから壁の方を振り返る。
その瞬間、轟音と共に無数の亀裂が入った壁が一気に崩れ落ちた。その範囲は広く、うちは慌てて地面を疾駆しリーリエはんの居る場所まで移動する。
空間に響く音が収まった時に、うちとリーリエはんが見た物――それは、ハガネダチの斬撃波によって完全に崩れて、今は唯の瓦礫の山と化したヴェルドラとムサシはんが消えて行った穴があった壁だった。
そうか、そう言う事か……外れたんじゃない。
偶然などでは無かった。このハガネダチは、うち等とムサシはんを分断する為に、敢えて攻撃をうちから外し、地面を斬り裂いてうちの背後にあった壁まで斬撃波を飛ばしたのだ。
「……こいつッッ!!」
目的を成し遂げ歪に口角を釣り上げた怨敵の貌を見て、うちの全身から“ぶわっ”と収めていた殺気と憎悪が溢れ出した。
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