第57話 VS.■■■■■■ 8th.Stage
リーリエから齎された情報を基にして、俺は行動を起こす。
コイツが持ち合わせている能力……魔力吸収能力についてだが、端的に言って魔力無しの俺から見てもかなり厄介な能力だと思う。
この世界は魔法の恩恵を多大に受けている世界だ。その魔法の元になる魔力を奪うっていうのは、中々どうして強力な力だ。
確か以前聞いた話では、スレイヤーの戦闘スタイルは例え近接戦闘職でも魔法を織り交ぜて戦うのが基本らしいし……その魔法を使えなくされたら、地力でこのデカブツとやり合う事になる。しんどい上に面倒くさい事この上ないな。
魔力持ちじゃない俺からすれば被害の無い能力ではあるが、リーリエを含めた他のスレイヤーからすれば死活問題だろう。何せ魔力枯渇状態にされたら魔法を使えなくなるどころか、物理的にぶっ倒れちまう。それこそ、クラークスと戦った時にリーリエが限界まで魔法を使って崩れ落ちた時みたいに。
コイツとの戦闘中にそうなったら最悪だ。その先に待っているのは、ほぼ間違いなく腹に収まる未来だからな。
「そうならない様にしましょうねっ、と!」
デカい方の噛みつきを躱し、チビは斬り飛ばして転がす。その間に、俺はデカい方の側面部に回り込んでリーリエが教えてくれた魔力吸収器官を、叩き付ける様にして斬りつける。
が、その頑強さは表皮にも劣らないらしく、表側からでは全て弾き返されてしまう。
……そう、
(なんぼ表は強烈な鎧に護られていても、内部までそうはいかない筈)
その内部を突く為には、まず蓋を開ける必要がある。そしてそれは、魔力持ちではない俺じゃ出来ない……リーリエの
つまり、ぴっちり閉じたままのエラを開けるにはコイツに魔力を吸わせる必要がある。だから、リーリエにもう一度【
魔力吸収の時間が長くなればなるほど、リーリエにかかる負担が大きくなる。だから、そうならない為にリーリエには魔力の吸収を感じ取ったら直ぐに魔法を中断して貰う。
当然、魔法が無くなればコイツの魔力吸収も収まり、再びエラは閉ざされる……なので、弁が開いたその瞬間に片を付けないといけない。
(集中集中……極力リーリエへの負担を避けるためにも、最初の一回で済ませる!)
度重なる攻防の中、俺は神経を研ぎ澄ませていく。周りの景色から色が失われていき、徐々にスローモーションで見え始めた……今ッ!!
『リーリエッ!』
『――!』
俺の合図を受け取ったリーリエが、ジャストタイミングで魔法を発動させた。
「【
瞬間、再びドラゴンの巨体を重力の雨が襲う。俺は直ぐ傍にいる訳だが、魔法の対象はドラゴンなので俺までリーリエの魔法の影響下に置かれる事は無い。ホント、魔法ってのは便利なモンだな。
「グオオオオオオオオッ!!」
魔法を掛けられて直ぐ、ドラゴンは魔力吸収を開始する。それに合わせて、塞がっていたエラが開いた。
それを確認した瞬間、俺は地面を蹴って空中へと駆け上がる。そして、ドラゴンの巨大な背中へと着地し、両手の
「ほーらよっとォ!!」
眼下に広がる背中……正確には、その背中の両サイドにある開いた弁の中に向かって俺は渾身の力で
「グギャアアアアアアアアッ!?」
初めて聞いた、悲鳴らしい悲鳴。突き立てた部分から、夥しい鮮血が噴き出す。やはり、内部は表に比べて遥かに脆い!
「ガアアアアアアッ!」
「うおっと、暴れんじゃねぇよクソ野郎!」
背中の俺を振り落とそうと、ドラゴンが必死に暴れる。絶対に振り落とされてなんかやらんからなァ!
とは言え、このままではいずれ背中を地面に打ち付けるなりなんなりし始めるだろう。その前に、一気に吸収器官を破壊する!
「ふんぬっ!」
俺は突き立った
「どっせえええええいッ!」
「ギャアアアアアアアッ!?」
俺の膂力を以って内部から引っ張られたエラは、ブチブチブチッ! という生々しい音を立てながら、
柔い内部からであれば、表側の硬さも
そうして、側面部の吸収器官の一部を纏めて引き裂かれたドラゴンは、たまらずと言った様子で地面へと転がる。その巨躯に圧し潰される前に、俺は背中から飛び降りて距離を取った。
「ムサシさんっ!」
「問題無し! 全部をぶっ壊すのは無理だったが、それでも万全な魔力吸収は行えまいよ!」
俺達の目の前で、デカい方のドラゴンが噴水の様な血を垂れ流す……しかし、それでも尚立ち上がって来た。本当にタフだねぇ……。
「リーリエ、魔力は大丈夫か?」
「はい。ムサシさんに言われた通り、魔力の流出を感じた瞬間に魔法を切りましたから」
「そうか。すまんな、予め具体的に何するのか伝えられれば良かったんだが」
「構いません。でも、まさかエラの間に剣を差し込んで内側から破壊するなんて思いませんでした」
「表側はあの頑強さだからな……それしか選択肢が無かったとも言える。もっと俺の剣術が洗練されてりゃ、ここまで回り道をする必要は無かったかもしれんけど」
「それでも、結果として魔力吸収器官の一部破壊には成功しました。これなら……!」
リーリエが
「【
血濡れのヤツの足元に白い文字が刻まれた黒い魔方陣が現れ、そこから四本の鎖が出現してその身体を縛り上げた。
「グッ、ガアア……」
「やった!」
リーリエが施した拘束をヤツは振り解こうとし、僅かにエラが動く。が、魔方陣の光は一切失われずに益々暴れる巨体を締め上げていく。どうやら、上手くいった様だ。
「あの器官、全部が連動してるらしいな……一つ壊されたら、残りも上手く機能しなくなる」
「それだけ繊細な仕組みにしないと、大気中の魔力も含めた大規模な吸収は出来ないんでしょうね」
「成程ね……どれ、したらばこの隙に
「はい!」
デカい方が満足に動きを取れない今が好機だ、まずは小さい方から仕留める!
「リーリエ、“脚”と“腕”と“速さ”をくれ!」
「――【
リーリエが俺が要求した強化魔法を、手早く発動させていく。
デカい方はともかく、チビの方は全乗せは必要ないだろう。
必要な分だけ貰って、後は俺が圧倒すればそれで済む話だ。
「ミギャアアアアアアアッ!!」
自分の……恐らく伴侶。それを傷つけられ、チビの方が悲痛と怒りを込めて咆哮する。まぁ、相手の方はそこまでチビの方を気に掛けている様子は無かったが。【
「しかし、聞けば聞く程冒涜的な鳴き声だな……」
耳障りなその雄叫びを聞きながら、俺は顔を顰める。さっさと首落としちまおう。
「【
「応ッ!」
リーリエが魔法を掛け終わると同時に、俺はチビの方へ一気に肉薄する。やはり、強化掛けられてる時とそうじゃない時じゃ天と地の差だな。
通常時でも単純な膂力で言えば俺に軍配が上がった様だったが、俺の拙い技術ではヤツ等の防御を貫通させるだけの威力を
だが、リーリエと一緒なら話は違う。俺の足りない部分を補って貰う事で、打ち崩せない者は存在しなくなる……そんな確信が、俺にはあった。
そうして俺の眼前にチビの退化して歪な形になった身体が迫る。ヤツの頭が、こちらを向いた。
戦っている時に分かったが、コイツは眼や腕は退化していても嗅覚は生きているらしい。だから、デカい方と一緒に俺に攻撃を仕掛けられた……だが、関係無い。
「あばよ」
「ミギッ――」
ヤツが回避運動を取る前に、俺の剣閃がその首を捉えた。
一瞬の抵抗。しかし振るわれた
胴体から離れた頭が、天高く宙に舞い上がる。それが地面へと落ちた時、頭部を失った身体もまた地面へと倒れた。
切断面から吹き出た血が、俺の体へ降り注ぐ。あーあ、こりゃ後で鎧やら持ち物も含めて体を念入りに洗わんとな。
――その時、不意に俺の体を濃密な殺気と共に巨大な影が覆った。
弾かれた様に後ろを向けば、そこには夥しい牙と唾液で満たされた
「――ッ!」
間髪入れずに、俺はその場から全力で飛び退く。あまりに力を入れた為に、蹴った地面が爆発を起こした様に弾け飛んだ。
「ムサシさんっ!?」
「大丈夫!」
リーリエのすぐ傍まで後退して、短く返す。
……あっぶねええええええ! あとコンマ数秒反応が遅れてたらパックリいかれてたぞ俺!
「ごめんなさい、途中で【
「げっ、それって魔力吸収能力が復活したって事か?」
「いえ、あれは魔力を吸収して魔法を解いたと言うよりは、強引に力で引き千切ったと言う感じでした」
「えぇ……まだそんな馬鹿力残してたのかアイツ」
「みたいですね……こんな事なら、【
唇を噛み締めながら、リーリエが悔しそうに言う。
「しゃーないだろ、アイツの能力的に魔力を温存して損は無い訳だし……ん?」
その時、俺は異質な音がドラゴンが居る方向から聞こえて来るのに気付いた。
パキ、ペキュ――
それは、何かを咀嚼する様な音……まさか!
「うわぁ」
「うっ……おぇ」
その光景を見たリーリエが、思わず口を押えて目を逸らした。ああ、確かにあの光景はキツイ。
――俺達の視界に映っていたのは、頭が無くなったチビの身体を一心不乱に喰らっているドラゴンの姿だった。
「おいおい……マジかアイツ。なんぼ腹減ってるからって、自分と一緒に戦ってた奴食うか普通」
合理的ではある。捕食によって、失った体力とエネルギーを補う……理には適っているだろう。
だが、少なくとも理性があればあんな行動は忌避する筈。そう考えると、やはりドラゴンという生き物は野生の中に生きる一線を画した存在なのだと、改めて実感させられた。
「……! 嘘だろオイ!?」
「えっ!?」
俺の声に釣られて、リーリエが背けていた顔をドラゴンの方へと向ける。
そして俺達二人は、目の前で起きている光景に我が目を疑った。
「そんな……!」
「エラが……再生していってやがる……!」
――どうやら、まだヤツとの戦いは終わらないらしい。全く、信じられん野郎だな!!
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