『神の怠慢』

あおかばん

第1話 『神の怠慢』


 地面には人が転がっている。一人、二人、三人。十を超えた辺りで、アキラは数えるのをやめた。 

鼓膜が破れてしまいそうな悲鳴をを耳に、アキラはただ一人、公民館の天井を見上げた。強く握りしめたこぶしはわずかに震え、眉間には想いの数だけしわが寄り、かみしめた歯がぎりぎりと鳴る。

 小さな子供が頭痛を訴える、苦悩をにじませる初老の女性が吐き気を、床にへばる好青年の呼吸は荒く。

 心地よさと相反し、空気の振動が心へとつながっていく。

 どうしてこうなってしまったのだろうか、誰のせいでみなが苦しむ世界へと変えてしまったのか、アキラは自身へと疑問を何度も投げかける。が、当然答えてくれるものは誰もいない。子供も老婆も青年も。アキラさえも。

 集団昏睡事件と神隠し。

 『神の怠慢』と呼ばれるこの事件を、アキラは心待ちにしていたのかもしれない。何十人もの人間が同時に倒れ、その中から一人だけ消えるこの事件を。アキラは望むのだ。

 もし叶うならば、この事件、集団昏睡事件を解決されないことを願う。

 神の怠慢は、誰一人として、解決されることを望まない。

 神は迷宮入りを願う。

 それでもいいと、アキラは言った。

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