数日前のこと

 酸素一式を貸してほしいと、養鶏場を継いだ友人から声が掛かった。酸素一式というと可燃性ガスに圧縮酸素とゲージ各種、それにガスホースと切断機かバーナーのことを指す。

 私はもう父の会社の人間ではないのだけど、昔から付き合いのある連中には区別がついていないらしい。


 父の会社、工場と事務所が建っている河原に向かい。番頭に声を掛け、軽トラと必要なもの一式を手配してもらった。どこに何があるか把握していても、一応の部外者である自分が勝手をするのもマズい。私の顔を知らない従業員も多々いるのだから。


 久しぶりに乗る軽トラを飛ばし、養鶏場を目指す。

 子供の頃、卵を産まなくなった鶏を潰す光景は若干トラウマになり掛けた。それを思い出しつつ。


 鶏は首を落としても走るのだ。それはもう必死に、そして力尽きる。

 養鶏場の次男とその光景を戦慄しながら眺めていた昔が懐かしい。

 今回呼ばれたのも、恐らくはそれが要因なのだろう。毎年ではないが、たまに声が掛かるのだ。



 私と共に慄いていた少年はもう立派な中年だ。同い年のはずなのに、歳の取り方は随分と異なるものだと感心する。

 

 やることをやってしまおう、と嘗て少年だった中年と共に作業に没頭する。

 過程はかなりグロいので割愛。


 昔は本当にトラウマ一歩手前で、夢に見ることもあったというのに。図太くなったというのか、穢れてしまったと悲しむべきか? 今はもうこの鶏をどのように調理しようかと考える余裕があることに驚きだ。

 軽く八羽ほど処理し、礼として一羽頂戴した。

 クリスマスというのであれば、ホロホロか七面鳥を希望したいところだが、ここらで飼育しているという話は全く聞こえてこない。

 鶏がタダに限りなく近い手間で手に入ったことを喜ぼう。どのように調理するか、考えがぐるぐると渦を巻く。

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