闇に溶ける

月見うどん

健康の為ではない

「寒い、こんな日の夜に訳もなく出歩く俺は馬鹿そのものだな」

 独り言ちて歩き出す、お燗機能付きのカップ酒を持ち今夜もお散歩をしている。

 別に飲み屋に行く金が無いわけでもない、家に居づらいわけでもないのだが散歩に行く。

 健康を考えて歩いている人たちを偶に見かけるが俺は違う。その日に良い場所を見付けて、一人酒を愉しむために散歩をしているのだ。

 人家の近くを理由もなく歩いていると不審者扱いされるので、そんな所には行かない。

 田んぼの畦道を歩いたり、時には河原を歩いたりしている。冬の河原はヤバい水面を吹き抜ける風が冷たくて凍えてしまう。


「今日はここで一杯やろう」

 景色を眺めながら、ほっと一息。底をペコンと押し込み燗が出来るのを待つこの時間も堪らない。

 今夜のポイントは公園のベンチだ、こんな時間だ誰もいやしない。

 子供の頃に遊んだ記憶のある広い公園だが、まさか夜中に独り酒を飲みにくるとは思いもしなかっただろう。懐かしい思い出に浸っている間に酒が出来たようだ。

 お酒から立ち昇る湯気もはっきり見える。

 一口呑んでふぅーと吐く、息が真っ白だ。

 二口、三口とすすめるといつの間にか飲み干している。これあまり量が入ってないんだよね。

 さて帰ろう、ゆっくり歩いて帰ろう。

 

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