『正義』の仮面を被った【化物】

@nikaido8

第1話

 

 ◎


「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…」



 ーー悪夢だ、これは悪夢だ!。




 時が止まった様に静かな路地裏で、男は一人がむしゃらに走る。

 怯えた顔で、まるで何かから逃げる様に。

 とても、夜のトレーニングとは言えなかった。

 それに加え、男の肩から斜めにかけて剣の傷でザックリと傷つけられて服にベッタリと血が染みている。

 男が歩けば、地面に血が幾度となく落ちる。

 側から見れば、歩ける様な怪我では無い。

 フラフラと歩みがおぼつかなく、今にも倒れそうだ。

 しかし、それでも男は歩みを止めない。

 男はわかっているのだ。

 歩みを止めた瞬間、自分は殺されると。



 男は殺人鬼であった。

 最初は友人との口喧嘩沙汰となり、そのままの興奮でその友人を殺めてしまった。

 しかし、その一件で男は気づいてしまった。

 殺人の快楽に。

 そこからの男は早かった。

 その次の日には、近所の住人を殺し。

 その次の日には、その友人の妹を殺し。

 さらにまた、次の日も、次の日も、次の日も、そのまた次の日も殺人を続けていった。

 そして、男が殺人を犯せば犯すほど、男は力をつけていき、遂には警察も歯が立たない程に強くなっていった。

 並みの者では男に傷一つ付けられなくなっていったのだ。

 ……だからこそ、そうであるからこそ。



 ーー今の状況がおかしいのだ。




(くそっ!!なんなんだあいつ・・・はよぉ!!!!)




 初めは、そろそろ次のターゲットを決めようか悩んでいた所に丁度、青年が一人路地裏に立っていた。

 これは好都合だ。と思い、その青年を次のターゲットにした。

 そして、いつもの様に話しかけて、いつもの様に首をはね飛ばそうとした。


 ーーだが、その青年は違った。


 首をはね飛ばそうとした瞬間に、青年が何かを唱えたかと思うと、青年の姿が変わったのだ。

 全身に黒のコートを着て、化物の様な仮面をつけた姿に変わった。

 そうして、その変化に呆けていた、その一瞬だった。

 青年が動いたかと思うと、一瞬のうちに肩から胴体にかけて斬られていた。

 ーーまずい!!と自分の本能が告げ、なんとかその青年から逃げ出したのだ。




(ここまでくれば追ってこないだろう)



 そうして、建物の影に隠れて身をひそめる。

 ここは、路地裏の死角の様な場所であるので、絶対にこの場所には気づかない。

 何度もこの路地裏で殺人を犯しては、ここに逃げ込み、逃れてきた。

 すると、安心したのか視界がボヤつく。



(大丈夫だ、ここまでくれば見つかるわけがない)



 そして、何度か深呼吸をして呼吸を整える。

 次からはへまをしない。

 次に奴にあった時は、話しかけずそのまま首を落としてや



「こんにちは」




 体の全てが、恐怖で埋め尽くされる。

 体の全てが、震える。

 体の全てが、警告する。

 すぐに、今すぐに逃げろと。

 だが、動かない。

 恐怖で体が動かないのだ。


「何故だ、何故ここがわかった」

「何故か?簡単だ、ついてきた・・・・・ただそれだけだよ」


 ありえない。

 気配すら感じないなんて。


 ーーだが、奴は油断しており。

 そして、奴は自分の射程距離内。

 ーーいける!!


「へっ、その余裕が命取りだぜ!!」

「ーー何!!」


 奴は仮面の中の目を大きく見開き驚愕を見せる。

 急いで、後ろに下がるがもう遅い。


「『殺人刃ジャッカルナイフ』!!」


 自分の持つ刃が、魔力によって一時的に巨大化する技。

 何度も殺人を犯して手に入れた技である。

 そしてこの技の恐ろしい所は、その斬撃の衝撃波が相手に向かって飛んでいく所なのだ。

 一度に、二度殺す技である。

 当然、至近距離で放ったため、巨大化したナイフと衝撃波が一斉に襲ってくるので、防御は間に合わない。

 念のために、奴の死体を見ておこうと、目を凝らすと。


「全く……期待はずれだな」


 傷一つ付いていない、奴の姿があった。

 ありえない。

 あの一瞬で同時に二つの刃を防御しただと?。

 そんなこと。


「できる……はずがねぇ……」


 しかし、現に奴は立っている。

 到底不可能なことをして、あそこに立っている。

 そんなことをできる奴など……

 と思った直後、一人の存在にたどり着く。

 この世界には数々の異能力がある。

 死者を操る能力や、兵器を創り出す能力など。

 だが、その能力の中でも別格の能力を持つものがあるのだと言う。

 曰く、全ての魔眼を持ちそれら全てを同時に操る能力だとか、自分の作り上げた世界に引きずり込む能力などと。

 そして、その能力を持つ者達を【大罪所有者】と言う。

 そして、この都市に一人、【大罪所有者】がいる。

 そして、その『大罪』が、7つある『大罪』の中でも特に異質な『傲慢』であると。


 そして、その者は青年であるのだと。


 ……もし、もしもこの青年が【所有者】なのだとしたら。

 ……勝てるわけがない。

 それどころか逃げることすら出来ない。

 その事を理解した瞬間、震えが止まらなくなった。



「やめろ!!くるな!!くるんじゃねぇ!!!」



 ーーやめろ、くるな、よるな、近寄るな。



 それでも、奴は歩みを止めない。



「く、くるなぁ!!いやだぁ!!」



 ーー殺される。



 一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる。



「いやだぁ!!俺は死にたくねぇ!!!」




 ーーくるな、くるな!!!くるな!!!このーーー




 そして、奴はその剣を自分の首に押し付ける。

 その姿は、最早、人では無い。

 その姿は、まるでーー






「ーーーー化物がぁぁぁぁぁ!!!」






 ーー化物であった。

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