意中のあの子を惚れさす薬
カメラマン
第1話
「はあ……。」
俺の名前は明星晃。今まさに振られた男。振られた後にわざとらしくため息をついている男だ。
今まで何度振られただろう。俺が惚れた女の子はみんな俺に惚れないんだ。今日だって絶対に成功するつもりでいたが、あっけなく振られて、すぐに帰られてしまった。
その子によれば、俺という人間は、「毒にも薬にもならない男」らしい。いい人。優しい人。そう形容せども、決して男性的な魅力は感じない。そういう人間。なるほど、だから女の子は平気で俺に恋愛相談をしてくるし、「xx先輩かっこいい……むり……。」のようなことをつぶやくSNSアカウントのフォローを許可されてしまうのだろう。
グラスの氷に指を当てる。ヌルリと氷が回転し始めた。そうだ、俺は今バーにいるのだった。少し大人な告白を目指し、この場所を選んだのだ。だけど、この場所はあまりにも俺に似合わなくて、恥ずかしくなってきた。少量しか酒は飲めないし、さっさと帰ろう。女の子が去り際に多めのお金を置いて行ったから、これで足りるだろ……。
「お隣、よろしいかな?」
「……え?」
振り向くと、初老の男性。口ひげをはやし微笑を浮かべているその姿は、まさに高貴と形容するのがふさわしかった。なるほど、バーというのは大人の社交場でもあるのだから、知らない人間に声をかけられることもあるのだな。まあ、せっかくだけど断ろう。こんなときに知らないおじさんと話しても、きっと楽しくない。
「あー、これから帰ろうと思ってたので、すみません。せっかく声をかけていただいたのに申し訳ないです。」
「先ほどの女性を、振り向かせたくありませんか?」
ああ、なんだ、見られていたか……。
「あー、さっきの見てました?いいんですよ。あの子は振り向きません。わかるんです。往生際が良いところが私の長所ですから、きっぱりと諦めます。さようなら。」
「ま、ま。少々私のお話を聞きませんか?。今の貴方にぴったりな、おクスリがありましてね……。」
初老の男性はそう言いながら、錠剤が入ったケースを2つ取り出した。
「ここにある青の薬と、赤の薬。これはペアになっていましてね。まず貴方に青の薬を飲んでいただきます。その後、赤の薬を1時間以内に先ほどの女性に飲ませます 。……するとどうなると思います?」
「ま、まさか……。」
「ご想像の通り。女性は貴方にベタ惚れ。好きよ好きよと離れられなくなるんです。どうです?使いませんか?」
「そ、そんなすごいものが……。で、でもそんなことしていいのか……。」
「怖がることはありません。クスリによるものでも、愛は愛。向かう方向を正しただけなのです。私にはわかります。貴方は素晴らしい男性だ。そんな貴方が報われないだなんて、世の男性は希望を失いかねません。」
「いや、でも……そんなことって……。」
「大丈夫。お金もとりません。これは道楽で行なっていることなのでね。人助けと思ってお使いください。私は貴方が幸せになっているところが見たい。」
「いやー、でも……。そんなこと……。」
「おやおや強情ですね。大丈夫ですよ。これは相手の気を狂わすような邪悪な行いではないのです。なぜなら、相手方の女性だって幸せになるのだから。」
「えー、でもー、そんなー、うーん……。」
「粘るなあ……。ゴホン!まあ悩むのも無理はありませんな。しかし、いいのですか?悶々とした日々から抜け出したくありませんか?この薬を使うだけで、抜け出せますよ?これは貴方の特権だ。」
「えーーーー。ふーーーーむ……。」
「そろそろいいやろ……。オッホン!!いいのですか?チャンスは二度と訪れませんよ?人間思い切りが必要な時もあります。えい、と一歩踏み出すことで見えてくる景色もあるのです。そして、それは素晴らしい景色である。私はそう思いますよ?」
「そっかー、おうおうおう〜、うーん……。」
「んんんんー、あのー、あれです。クスリによるものでも愛は、愛なのです……。向かう方向を……正しただけでね。だからこれは邪悪な行いではなく……。」
「それ2回目ですよね。」
「あららら、そうでしたか、はっはっはー!……さあさあ、ひと笑い入れたところで、どうです?おクスリ、使いますか?」
「いやー……うーん……。」
「本当にいいのですか?」
「いいや。」
「え、本当ですか!?」
「はい。いいですって。」
「え、なんか、これから、女の子に錠剤を飲ませる作戦を考えたりしないのですか?」
「だからしませんって。恋愛なんてクスリを使ったらつまらない。自分でなんとかします。あとそれに、あなた怪しすぎますよ?」
「……ほう。」
「なんですか?」
「……頑張ってくださいね。」
「はあ、どうも……。」
その後家へ帰り、早々に眠りについた。明日からまた、頑張ろう。
意中のあの子を惚れさす薬 カメラマン @Cameraman2525
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